こどもの「しつけ」に悩んでいる保護者は非常に多いです。
外来や健診の際に、本当によく相談されます。
私は小児科医で、あくまで教育の専門家ではないので、私見と医学的によく紹介されている研究結果からの見解を寄せ集めたものになります。
怒りは子供の自尊心を傷つける
一般論ですが、やみくもに怒ると、こどもの自尊心は大きく傷つきます。
また、外出先などで、声を張り上げて怒っている親をみると『みっともない』と周りから白い目をむけられてしまいます。
とはいえ、こどもを放置すると、学習しませんので、好き放題に動き回り「だらしのない親」というレッテルを貼られてしまいます。
正直『どうしたらいいんだ..』となってしまうと思います。
このように、子供の教育には大きなジレンマがつきものです。
今回は、小児科医からみた「こどものしつけ」についてまとめてみました。
「しつけ=コーチング」と捉えると少し気楽になれるかも
「しつけ」というと、親が子供に強制的に行う指導という印象があります。
『子供をしっかり教育しなければ』と気合をいれるのは大事です。
しかし、言語理解が不十分な低年齢ですと、その気合いも空回りしてしまい、ついつい親が癇癪(かんしゃく)を起こしてしまうことも多々あるでしょう。
「しつけ」は教育テクニックの1種と考えてください。
「大人がこどもに施すコーチング」として捉えると良いでしょう。
大人がこどもをコーチするので、それなりの技術が必要です。
教える技術を身につけることが重要
誰もが子育ては初めての経験で、個人個人が暗中模索していることでしょう。
核家族化も進んで、こどもを指導する方法は、誰にも教えてもらえません。
誰にも「教える技術」を教えてもらえないので、どう子供を指導していいか分からず、怒りにまかせて怒ったり、好き放題にさせたり、と極端な行動をとってしまうことがあります。
科学的に有効な「しつけ」
「しつけ」は指導のテクニックといいましたが、過去の研究結果から科学的に有効な方法があります。
有効な手段を知り、自分なりにアレンジすることで、思わぬ成果をあげることもあります。
ポイント
大まかなポイントですが
- 優しく言葉で伝える
- タイムアウト (小休止/中断)
- 特権を剥奪する
- ポジティブな行動は真似させる
- 体罰はしない
です。
このシンプルな法則にしたがって「しつけ」をしていくとよいでしょう。
タイムアウト(中断・休止)とは?
乳児期から使用できる教育方法として、「タイムアウト」という方法があります。
こどもが望ましくない行動をした場合、こどもから物をとりあげ、遊びを中断する方法です。
この方法は乳児〜6歳と広い範囲でできます。
タイムアウトの例
例えば「リビングでコンセントを触って遊んでいる」という危険行動があったとしましょう。
生後1歳くらいによく見られる行動ですが、明らかに危険な行動ですね。
この場合、
- コンセントをとりあげる
- 別室につれていく(例:寝室など安全な部屋)
- ドアを閉めて、一定の時間だけ(数分程度)一人にする
という行動をするとよいでしょう。
②〜③の過程で、おそらくこどもは大泣きするでしょう。
ですが、決して声をかけてはいけません。話し合いもしません。
立ち去る時間として「1分×年齢」が目安といわれています。
タイムアウトを行う意義
これは、「あなたは望ましくない行動をしたのですよ」というのを、身をもって教える方法です。
特に乳幼児は言葉の理解が不十分であるため、こうした行動で示すことが重要です。
「望ましくない行動をした」ことを本人が理解できれば、自然とその行為をやめるようになります。
教育は一貫性が重要
タイムアウトによる教育をする時、「一貫性」も重要です。
今回の例ですと、「コンセントで遊ぶ」行為をする度に、タイムアウトを実行するとよいでしょう。
こうすることで、「コンセントを触るのは良くない」というのが、自然と身につきます。
タイムインについて
タイムインは、タイムアウトとは逆の行動をいいます。
タイムアウトは、「望ましくない行動をした時に、軽いペナルティーを与える」方法ですが、タイムインは「望ましい行動をした時、しっかりと褒めてあげる」方法です。
例えば、手を洗ってくれた、歯磨きを上手にできた、スプーンでご飯を食べようと頑張った、など本人が頑張ったら、その場でしっかりと褒めてあげましょう。
危険がなければ自然の経過から学ばせることも重要
こどもは、生来、学習能力を持っています。
このため、親がわざわざ介入がなくても、自然の成り行きから、ネガティブなことに気づき、修正する能力があります。
明らかに危険な状況でなければ、大らかに構えて自然の成り行きから学ばせてみても良いでしょう。
具体例について
言語学習は良い例でしょう。
最初は、朝も昼も夜も「おはよう」しか言えなかった子が、周りの大人や友達の声かけから、「こんにちは」「こんばんは」と最適な挨拶の仕方を学んでいきます。
大人が思っている以上に、こどもは大人のしぐさ・行動をみているので、危険な行為をしていなければ、時には干渉せずに、自然の成り行きをみていてもよいでしょう。
特権の剥奪
特権の剥奪は、5歳以降の小児に非常に有効です。
できれば、早い段階で導入するのがよいでしょう。
最近は、テレビ、インターネット、スマホ、ゲームなどに依存してしまう子供が沢山います。
両親の言う事をきかなかったり、決められた時間を超えて使用している時は、取り上げて、使用できないようにしましょう。
子供の特権を剥奪することで、やっていいこと、悪いことを身につけることができます。
導入時期が重要です
この特権の剥奪による教育ですが、導入する年齢が遅いと、剥奪しても、子供がそれを乗り越えてしまうことがあります。
例えば、ある程度知恵のついた子供の場合、ゲームを取り上げても、見つけ出して結局ゲームで遊んでしまうことでしょう。
ですので、あまり抵抗ができない、早い段階からスタートするのが良いです。
論理的に教えてみる
4〜5歳くらいから、子供は徐々に論理が分かってきます。
さらに、この時期から、周囲の反応をみて、自分の間違いを学ぶことができます。
つまり「失敗を失敗として学ぶ」ことができるようになってきます。
この時に、なぜ間違い・失敗をしてしまったのか、言葉で説明をするとよいでしょう。言葉で理解することは、間違いの再発予防にもなります。
行動療法
行動療法とは「望ましい行動に対して、報酬を与える」方法です。
タイムインに類似した手法ですが、より具体的な報酬です。
こどもが行った、ちょっとした良い行動に対して、小さな報酬を与えることです。
例えば、家事のお手伝いをしてくれた、片付けを手伝ってくれた機会に、好きなお菓子を1つだけあげる、などが良いでしょう。
この行動療法ですが、持続可能な報酬を与えるとよいでしょう。
小さく積み重ねることで、効果は徐々に発揮していきます。
しつけの方法論のポイント
「しつけ」で重要なのは;
- シンプル である
- 一貫性がある
- 良い行動は褒める、報酬を与える
- 悪い行動は、取り除いていく
の4点に気をつけるとよいでしょう。
体罰はNGですよ
最後に体罰について説明します。
体罰は基本的にNGで、推奨しません。
体罰をすると、子供は徐々に暴力的になります。
さらに、あからさまに怒りをみせるようになってきます。
体罰は必ず一貫性が保てなくなります
教育方法として、最後は一貫性が欠けるようになり、徐々に有効でなくなります。
例えば、幼児期や小学校低学年までは体罰が有効でも、 子供の体が大きくなると反逆されるため、体罰はできなくなります。
家庭環境は最後には必ず悪化するので、体罰は絶対にやめましょう。
さらに体罰は、将来の鬱病、アルコール多飲、犯罪、DV(家庭内暴力)とも関連しています。
ですので、基本的に体罰をして、いいことはありませんので、注意してください。
◎ 近年、幼児教育の重要性が見直されています。こちらは海外で有名な書籍の日本語訳ですので、一度読んでみても良いでしょう。
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