今回はこちらの論文をピックアップしました。
光線療法とけいれん発作の関連性をみた研究になります。
光線療法は新生児黄疸でよく使用される治療法です。
新生児黄疸についてはこちらで詳しく説明しています↓↓
簡単にまとめると、「血液中のビリルビン濃度が上昇する」と黄疸になります。
そして、黄疸がひどいと脳にビリルビンが蓄積して、神経を障害してしまうことがあります。
このことを、急性ビリルビン脳症や核黄疸といいます。
光線療法は、ビリルビン濃度が上がりすぎないように行われている治療です。
本記事の内容
- 光線療法のデメリット
- 研究の方法
- 研究の結果と考察
今回の論文は”Pediatrics”という小児の有名雑誌に掲載された論文です。
とはいえ、観察研究であり、疫学的な視点から見て、研究者らの行った解析手法に基づく結論について、少し疑問も残っていますので、その点も解説させていただければと思います。
光線療法のデメリット
研究の質が高くはなく、不確かなものが多いですが、光線療法を受けると
- 糖尿病のリスクが上がる
- 自閉症のリスクが上がる
- ガンのリスクが上がる
といった過去の報告があります。
(注:私は、個人的には、これらの研究の質は高くないため、あまり信用していません)
光線療法とけいれん発作について
近年、男児においてのみ光線療法後にてんかんのリスクが上昇することが報告されていました。
例えばデンマークの研究では、男児で光線療法を受けると、てんかんのリスクが2倍に上昇すると報告されています。
しかし、これらの研究ではビリルビン濃度による交絡の対処が不十分で、結局
- ビリルビン濃度が問題なのか
- 光線療法が問題なのか
に対する答えがでていません。
今回の研究では、
- アメリカにおいてもデンマークと同様の結果が得られるか
- ビリルビン濃度を統計学的に対処しても光線療法の影響がでるか
の2点について、カイザー・パーマネントのコホートを使用して調査しています。
研究の方法
- 約50万人の新生児
- 35週以降に出生
- 1995-2011年
- 15の病院
- 60日以上追跡されている(2014年の3月まで)
患者を対象にしています。
- 交換輸血が必要
- 生後60日までにけいれんあり
を除外しています。
治療・アウトカム・共変数について
- 治療:光線療法
- アウトカム:けいれん発作(全てのタイプ)
- 共変数:性別、人種、出生体重、週数、ビリルビン値、遺伝疾患(Down症候群など)、先天性疾患、低酸素虚血性脳症、脳出血、髄膜炎
としています。これらはCox proportional hazard modelに組み込まれています。
研究の結果と考察
追跡期間は平均8.1年でした。
対象患者のうち37,683人(7.6%)が光線療法を受けました。
(6.1%は病院で、1%が家庭で、0.5%は両方で)
患者全体での結果
粗解析では、けいれん発作のIncidence Rateは、
- 光線療法あり:1.24 / 1,000 person-years
- 光線療法なし:0.76 / 1,000 person-years
でした。
光線療法とけいれんについて
Incidence rate ratio ( IRR)は、
- IRR = 1.63(95%CI, 1.44〜85)
と、光線療法を受けた小児のほうがけいれんを起こす可能性が63%ほど高かったです。
また、けいれん発作までの平均期間は約5年でした。
光線療法を受ける累積リスクは、追跡期間に応じて高くなっています。
Cox proportional hazard modelで、共変数を対処したところ、
- aHR 1.22(95%CI, 1,05〜42)
とでています。これは、前回デンマークで行われた研究(Rate Ratio, 2.18)より小さな値でした。
aHRは男女別でみると、
- 男児:1.33 (95%CI, 1.10〜1.61)
- 女児:1.07 (95%CI, 0.84〜1.37)
と男児で統計学的な有意差があります。
10年間でのけいれん発作のリスク
10年間でのけいれん発作のリスクは、光線療法を受けた場合、
- 全体:2.4 per 1000(95%CI, 0.6〜4.1)
- 男児:3.7 per 1000(95%CI, 1.2〜6.1)
- 女児:0.8 per 1000(95%CI, -1.7〜3.2)
と、男児と全体の結果で統計学的に有意を認めました。
デンマークでの研究と同様の傾向でしたが、けいれんのリスク上昇は1.3〜1.4倍程度で、10年の追跡では1000人2.4人増えるという結果でした。
交絡因子の対処について
今回の研究で著者らは「ビリルビン値を対処した」という点を繰り返し強調しています。
現に、光線療法をした場合の
- 今回の研究では、けいれんのリスクは1.2倍上昇
- 前回の研究では、けいれんのリスクは2.2倍上昇
という結果でした。
実はこの結果は、同じ1つの現象を別の視点でみているといえます。
上の図(DAGと言います)を見てみましょう。
過去の研究ではビリルビン値が統計学的な対処がされていないため、
- 光線療法によってけいれんのリスクが上がったのか
- ビリルビンによってけいれんのリスクが上がったのか
不明確です。
今回はビリルビンを対処することで、光線療法とけいれん発作の関連性のみをみようと試みています。
本当に光線療法はけいれんのリスクをあげるのか?
今回の研究のみで光線療法がけいれんのリスクをあげるか、確定的なことは言えないと思いました。
統計学的にビリルビンを対処したと著者らは強調しています。これを別の言葉でいうと、統計学的なモデル(数式)において、同じビリルビン値であれば、光線療法を受けた場合と、受けなかった場合でけいれんのリスクを比較していると言えます。
統計学的なモデルが正しければいいのですが、臨床的に考えて同じビリルビン値でも、光線療法を行うかいなかは、他の臨床情報(U)を加味して判断していると思います。
この計測されていない因子(U)がけいれんの起こりやすさと関連していれば、光線療法の有害性は実はなくても、統計学的に優位に出てしまうことがあります。
今回の研究結果が、(偽りの)相関か、因果関係かについては慎重に判断した方が良いと思います。
まとめ
今回は光線療法がその後のけいれん発作のリスクを上昇させるかもしれない、という結果でした。
前回の研究より統計学的な対処は妥当なものになっていますが、それでもまだ疑問の残る内容です。
特に、光線療法は広く行われている治療法ですので、さらなる研究が必要と考えています。
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