- 「熱性けいれんのある子には、解熱剤を使わないでください」
- 「熱性けいれんのお子さんには、けいれん止めの座薬を必ず使ってください」
など、科学的根拠のない指導をする小児科医がいます。
例えば、解熱薬は熱性けいれんを誘発もしなければ、予防もできないのは過去の研究から分かっています。
間違った知識を指導し続ける医師の下に、従順な(というか自分で調べることをしない)若手医師がつくと、間違った知識が伝播してしまいます。
時に、病院単位で治療方針を固定している場合、定期的に治療方針が最新のものに合致しているか自己点検をしないと、気がついたら時代遅れの治療をしている可能性があります。
医師が屋根瓦式に教育をしていくことは非常に重要ですが、経験則のみに基づいたり、知識のアップデートをなしに教育を施すことが、弊害が生まれることがあります。
少し言い過ぎかもしれませんが、教育には一種の洗脳の要素がありますので、常に慎重にならざると得ないと私は考えています。
今回の論文では、熱性けいれんの知識について、医師の経験年数との関連を検討しています。
研究の方法
2008年の東京都内の小児科学会員 1870人を対象に、アンケートが行われました。
アンケートでは、家族歴のない初発の熱性けいれん患者を想定して、
- 熱性けいれんの罹患率・再発率
- 予防投薬とその期間
- 解熱剤の使用
- 24時間以内の再発時の受診基準
- ガイドラインの遵守率
などを中心に行われました。
研究の結果
研究結果について解説していきましょう。
回答した医師の特徴
合計で482人の小児科医が研究に参加し、
- 20年以下:238人(49.4%)
- 20年以上:243人(50.4%)
でした。
- 病院勤務:263人(55%)
- 診療所勤務:203人(42%)
- 研究機関:9人(2%)
- 診療所と病院:7人(1%)
熱性けいれんの知識について
これらの結果から、20年未満の若手医師は
- 罹患率を実際よりも高く答え
- 予防投薬を頻回に行い
- 解熱薬を使用しないように指導し
- 熱性けいれんのガイドラインを知らない
傾向がありました。
「ガイドラインは知らないが、ガイドラインを遵守している」と答える方がおよそ30–40%ほどいるのに驚きました。
研究の限界について
よく論文では「Limitation」として、研究の限界について記載します。
それぞれの研究によって書く内容は異なりますが、
- 交絡(特に計測できなかった交絡因子)
- 選択バイアス
- 情報バイアス(誤分類)
- 一般化可能性(generalizability)
あたりの4つを記載するケースが多いです。
今回の研究では、1870人にアンケートを配り、答えたのは482人です。
残りの人たちが同じような回答をする保証はありません。なぜなら、研究に参加した人のほうが臨床に対してモチベーションが高いかもしれませんし、ひょっとしたら暇な病院にいてあまり熱性けいれんをみていない小児科かもしれません。
このような状態を、選択バイアスにあたります。
DAGを使えば選択バイアスは一目瞭然です。
若手医師とアンケート結果の成績の悪さは、単なる偽りの相関のこともあります。
まとめ
やや古い研究になりますが、年齢別で分けてみると、卒後20年以下の小児科医は、知識面で20年以上の小児科医により熱性けいれんに関して正答率が低い傾向にありました。
単純に若手の小児科医が知識や経験不足なのではなく、教育の方法であったり、知識の更新の仕方に問題があるかもしれませんし、単なる選択バイアスによる偽りの相関の可能性もあります。
とはいえ、こうした医師の診療パターンや知識を比較した研究は、大変面白いと思いました。
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