感染症

妊娠中の感染と幼児期の発達上の懸念との関連[スコットランド]

 
この論文は、妊娠中の感染と幼児期の発達上の懸念との関連を検討したものです。
 
参考文献

Hardie I, Murray A, King J, Hall HA, Luedecke E, Marryat L, Thompson L, Minnis H, Wilson P, Auyeung B. Prenatal maternal infections and early childhood developmental outcomes: analysis of linked administrative health data for Greater Glasgow & Clyde, Scotland. J Child Psychol Psychiatry. 2025 Jan;66(1):30-40.

妊娠中の感染と幼児期の発達上の懸念との関連[スコットランド]

研究の背景/目的

これまでの研究では、妊娠中の母親の感染が、その後の幼児期の発達や社会情緒的な困難と関連していることが示されている。しかし、既存の研究は主に、自己申告による調査データや病院で記録された感染データのみに依存しており、データ収集における欠落が生じていた。

研究の方法

本研究では、スコットランドのグレーター・グラスゴー&クライド地域で2011年から2015年に生まれた55,856人の子どもとその母親を対象に、出生記録、病院記録、処方データ、定期的な小児健康診査のデータを統合した大規模な行政医療データセットを用いた。ロジスティック回帰モデルを用いて、妊娠中の感染(病院で診断された感染および妊娠中に感染に関連する処方を受けたかどうか)と、生後6~8週間または27~30か月の健康診査で保健師が指摘した幼児期の発達上の懸念との関連を検討した。さらに、(a) 特定の発達領域(粗大運動技能、聴覚・コミュニケーション、視覚・社会的認識、個人・社会性、情緒・行動・注意、言語・コミュニケーション)ごとの違い、(b) 感染が発生した妊娠期(三期のいずれか)による違いについても検討した。

研究の結果

交絡因子および共変量を調整した後、病院で診断された感染は、少なくとも1つの発達上の懸念を持つ確率の上昇と関連していた(オッズ比: 1.30、95% 信頼区間: 1.19–1.42)。この関連はすべての発達領域において一貫しており、特に胎児の脳の髄鞘化が進行する妊娠第2期(オッズ比: 1.34、95% 信頼区間: 1.07–1.67)および第3期(オッズ比: 1.33、95% 信頼区間: 1.21–1.47)に感染が発生した場合に特に顕著であった。

一方、感染に関連する処方を受けたこと自体は、少なくとも1つの発達上の懸念を持つ確率の増加とは明確に関連していなかった(オッズ比: 1.03、95% 信頼区間: 0.98–1.08)。しかし、個人・社会性の発達(オッズ比: 1.12、95% 信頼区間: 1.03–1.22)および情緒・行動・注意の発達(オッズ比: 1.15、95% 信頼区間: 1.08–1.22)に関する懸念の増加とはわずかに関連していた。

結論

妊娠中の感染、特に病院で診断されるほどの(より重症である可能性が高い)感染は、幼児期の発達に影響を与える可能性がある。妊娠中の感染を予防し、影響を受けた子どもたちの支援ニーズを適切に把握することで、幼児の発達を向上させる可能性があるが、因果関係の確立にはさらなる研究が必要である。

考察と感想

この論文は、妊娠中の母体感染と子どもの発達との関連を、大規模な行政医療データを用いて検討した研究です。グラスゴーおよびクライド地域の55,856人の子どもとその母親のデータを分析し、病院で診断された母体感染および感染関連の処方薬の受領が、乳幼児期の発達懸念とどのように関連するかを調査しています。

結果として、病院で診断された母体感染は、子どもが6~8週または27~30か月の健康診査時に発達懸念が指摘される可能性を有意に高めることが示されました。特に、妊娠第2・第3三半期に発生した感染が発達リスクと関連しており、この時期は胎児の脳髄鞘化(ミエリン化)が進行する重要な段階であることが関係していると考えられます。一方で、感染関連の処方薬の受領は、発達懸念全体には明確な関連を示さなかったものの、個人的・社会的発達、および情緒・行動・注意発達にはわずかに関連していました。

 

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このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。