Bettocchi S: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2025;8(3):e250669. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.0669
Comotti A Elli M, et al. Probiotics and Fever Duration in Children With Upper Respiratory Tract Infectionsプロバイオティクスと小児の上気道感染症における発熱期間[イタリア編]
研究の背景/目的
小児における上気道感染症(URTI)は非常に一般的であり、特に発熱を伴う場合には医療機関への受診が頻繁に行われます。しかし、現時点ではURTIに対する標準的な治療法は確立されておらず、解熱剤は一時的に体温を下げるものの、発熱期間を短縮する効果はありません。近年、プロバイオティクスが感染症の管理に有用である可能性が示唆されており、腸内細菌叢と免疫応答の関係から、呼吸器感染症にも効果を及ぼす可能性が考えられています。しかし、小児におけるプロバイオティクスの効果に関するエビデンスは限られています。
研究の方法
本研究では、Bifidobacterium breve M-16V、Bifidobacterium lactis HN019、Lactobacillus rhamnosus HN001を含むプロバイオティクス混合物が、小児の上気道感染症における発熱期間を短縮するかどうかを検証することを目的としました(生後28日~4歳)。無作為化臨床試験を実施し、プロバイオティクスを摂取した群とプラセボ群を比較することで、その有効性と安全性を評価しました。
研究の結果
本試験には128名の小児が参加し、プロバイオティクス群(63名)とプラセボ群(65名)に無作為に割り当てられました。プロバイオティクス群では発熱期間の中央値が3日(四分位範囲 2–4日)であったのに対し、プラセボ群では5日(四分位範囲 4–6日)でした。この差は統計的に有意であり(P<.001)、プロバイオティクス群の発熱期間は2日短縮されました。副作用として軽度の便秘や腹痛が報告されましたが、プラセボ群と有意な差は認められませんでした。
結論
Bifidobacterium breve M-16V、Bifidobacterium lactis HN019、Lactobacillus rhamnosus HN001を含むプロバイオティクス混合物は、小児の上気道感染症における発熱期間を2日短縮する効果が認められました。安全性にも問題はなく、有望な補助療法となる可能性があります。今後、より大規模な研究を通じて、その効果の再現性を検証することが求められます。
考察と感想
本研究は、プロバイオティクスが小児の上気道感染症における発熱期間を短縮するかを検証した無作為化臨床試験です。特定の乳酸菌とビフィズス菌を含む混合プロバイオティクスを投与した結果、発熱期間が2日短縮されることが確認されました。これにより、プロバイオティクスが小児の感染症管理に有効な補助療法となる可能性が示唆されました。
項目 | プロバイオティクス | プラセボ | P |
発熱期間発熱期間(中央値, IQR) | 3日 (2-4日) | 5日 (4-6日) | <0.001 |
便秘発生率 | 16% (6/63) | 12% (6/65) | 0.80 |
腹痛発生率 | 8% (3/63) | 4% (2/65) | 0.65 |
気になる点の1つとして、治療群のドロップアウトの多さです。もう一つはプラセボグループのかぜによる熱が中央値で5日は長くないでしょうか。
以下のプロバイオティクスが使用されたようです:
- Bifidobacterium breve M-16V LMG 23729 (1 × 109 CFUs [colony-forming units])
- Bifibidobacterium lactis HN019 ATCC SD5674 (1 × 109 CFUs)
- Lactobacillus rhamnosus HN001 ATCC SD5675 (1 × 109 CFUs)
Bifidobacterium breve M-16V, Bifidobacterium lactis HN019, and Lactobacillus rhamnosus HN001 を含むプロバイオティクスは日本にあるのだろうか、というのが疑問でした(ドラッグストアでイタリアでは利用可能とのこと)。外的妥当性の問題(つまり日本人にも有効か?)もそうですが、この組成が日本の小児にできるかも慎重に検討する必要があります。菌種が異なれば、効果も変わると考えるのが自然ではないでしょうか。
調べたところ、Bifidobacterium breve M-16Vは、森永乳業が独自に開発したビフィズス菌M-16Vは、特に低出生体重児の腸内フローラ形成を促進する効果があり、20年以上にわたり全国の医療機関に無償提供されているとのことでした。知らなかった…。
Bifidobacterium lactis HN019(別名Bifidobacterium animalis subsp. lactis HN019)はDuPont Daniscoによって製造され、Lactobacillus rhamnosus HN001は、Fonterraによって供給される菌株で、乳幼児のアトピー性皮膚炎予防や母体の妊娠糖尿病リスク低減などの効果が研究されている、とのことでした。
この辺りは私は明るくないので、調べなおさないといけないですね。
Dr. KIDの執筆した書籍・Note
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