- 「鼻を吸ってください」
- 「鼻が詰まって苦しそうです」
- 「鼻水が多いのですが、どうしたらよいでしょうか?」
などなど、こどものかぜに鼻の症状はつきものです。
特に新生児や乳児は鼻呼吸がメインであるため、鼻水で詰まってしまうと機嫌が悪かったり、少し息苦しそうにしていることもあります。
また、小児科外来では「鼻水・鼻づまりがあります」と受診されるケースも多いです。
小児科的に問題となっているのは、薬の不適切な使用です。例えば、
- 鼻水が出てきたから、抗ヒスタミン薬で止める
- 緑色の鼻水だから、抗生物質を使う
といった診療は、多くの場合、間違っていると言わざるをえません。
鼻水に対して確実に有効な治療法はないのですが、
- 鼻洗いをする
- 鼻水を吸ってあげる
といった処置でお子さんの鼻がすっきりと開通して、機嫌がよくなったり、よく眠れるようになったりは、小児科医であれば日常的に経験していると思います。
今回は、鼻吸引器の研究をみつけたので、こちらで報告させていただきます。
研究の方法
今回の研究は、イタリアのミラノで行われたコホート研究で、
- 212人の小児(22の病院)
- 男 108人、女104人
- 平均月齢 9.6ヶ月
を対象に行われています。
研究の手法としては、
- 1日3回の鼻吸引を7日間行い
- 初日と7日目のデータを比較する
という前後比較試験を行っています。
(*後述しますが、前後比較試験はこのケースでは不適切です)
研究の結果と考察
かぜ症状の改善
前鼻漏(鼻水)、後鼻漏(鼻水の喉への垂れ込み)、口呼吸、うるさい呼吸の4点を初日と7日目で比較すると、
- 前鼻漏:74%減少
- 後鼻漏:80%減少
- 口呼吸:78%減少
- うるさい呼吸:73%減少
となっています。
生活に関連した項目の改善
睡眠、食事、薬の使用、満足度などは、
- 睡眠の質:67%向上
- 食事摂取:36%向上
- 薬の使用:41%減少
- 満足度:90%
でありました。
鼻吸引にともなう症状
鼻の吸引に伴って起こった症状として、
- 長引く啼泣(14%)
- 鼻出血(3%)
- 嘔吐(1%)
- 不機嫌(1%)
がありました。
前後比較試験を評価するときの注意
今回の研究は鼻吸引器の有効性と副作用を調査した点では非常に評価できる研究です。しかし、有効性の評価自体は非常にミスリーディングな内容になっています。
前後比較試験をするには、介入前後で変化しないと思われる項目をアウトカムにする必要があります。
しかし、鼻水も呼吸の症状も変化するものです。なぜなら、かぜは自然に治るからです。この状況で初日と7日目で比較しても、対照群(吸引器を使用しなかった群)がなければ片手落ちの結果になります。
例えば、以下の図を参照してみてください。
例えば右上の「咳の症状」をみてください。
仮に「7日間、咳の症状が全く改善しない」と前提を置いてみると、吸引器の有効性は
- 1.09 – 0.37 = 0.72
となります。ですが、この前提がおかしいのは誰しもが気づくと思います。なぜなら、かぜによる咳の症状は、通常は時間とともに軽快するからです。
次に、左下の「鼻水の症状」をみてみましょう。
赤矢印は自然経過と仮定し、黒線が今回の研究結果とします。
自然経過が赤矢印であれば、最終日での黒線との差はほとんどなく、有効性がなくなってしまいます。
このように、前後比較試験をする際は、どのようなアウトカムを設定するか慎重にならなければなりません。
今回の研究では比較され、全て P < 0.001となっていますが、このP値もほぼ意味がないものです。
なぜなら、研究デザイン(アウトカムの設定・コントロールなし)の時点で間違っているからです。
まとめ
今回は鼻の吸引器の有効性の検討をした研究をピックアップしました。
有効性の評価は不十分なものでしたが、吸引に伴う重大なイベントは起きなかったことが確認されている点は評価できると思います。
有効性に関しては、質の高い研究結果をまとうと思います。
あと、今回の研究で行われた「1日3回を1週間」は、保護者の方に説明する際に、ある程度の目安になるかもしれません。
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