今回は乳児の鉄欠乏と発達を評価した論文をピックアップしました。
当ブログでも度々、乳児期の鉄欠乏の問題点について解説してきました。
鉄欠乏は乳児期に起こりやすく、将来の脳発達や認知機能に影響することが数多く報告されていますが、その影響がいつから始まっているのかを検討した研究はそれほど多くはありません。
この論文では、生後9ヶ月時点での鉄欠乏と、生後9、12ヶ月時点での発達について検討しています。
乳児の鉄欠乏と発達について
乳幼児の鉄欠乏は公衆衛生上の問題として考えられています。途上国のみでなく、先進国でも乳幼児は鉄欠乏になりやすく、注意が必要です。
アメリカにおいて、鉄欠乏の乳児の割合は1980年代から減少傾向にありますが、貧困層・移民・マイノリティーなどで依然として高いです。
過去の研究では、鉄欠乏があると
- 運動発達が遅れる
- 社会情緒が乏しくなる
傾向にあるといわれています。
今回の研究では、乳児の鉄欠乏性貧血が認知機能の低下や社会情緒の欠乏にどのように影響しているかを検討しています。
研究の方法
ミシガン小児病院に受診した黒人の生後9ヶ月の乳児を対象に、貧血の検査をし、
- 正常
- 鉄欠乏あり、貧血なし
- 鉄欠乏も貧血あり
の3グループに分けています。(*鉄剤は全員に投与)
生後9ヶ月時点・12ヶ月時点での認知機能や社会情緒の状態を
- Fegan Test of Infant Intelligence
- A-not-B task
- Emotionality, Activity and Sociability Temperament Survey
などを使用して評価しています。
研究の結果と考察
3グループの内訳は
- 正常:21人
- 鉄欠乏のみ:28人
- 鉄欠乏性貧血:28人
となっています。
鉄欠乏性貧血と「対象の永続性」
「対象の永続性」は、人や物が自分の前からいなくなっても、「存在している」と認識していることをいいます。
9〜12ヶ月くらいで「対象の永続性」を獲得してきて、例えば「母親が目の前からいなくなっても、存在している」と認識するようになります。
鉄欠乏性貧血のある乳児のほうが、「対象の永続性」の試験を通過する割合が低かったです。
- 鉄欠乏性貧血:64.3%
- 貧血なし:87.8%
そのほか、鉄欠乏性貧血のある乳児のほうが、
- 認知記憶が低い
- 嗜好性が低い
- 内気・シャイ
という傾向にありました。
アメリカでの鉄欠乏のスクリーニングとの問題点
現在、アメリカでは生後9〜12ヶ月の乳児を対象に鉄欠乏性貧血のスクリーニングをしています。
これまでの研究結果を合わせると、鉄欠乏が発達に与える影響は、このスクリーニング期間より前に起こっていることが示唆されており、間接的に貧血のスクリーニング開始期間に疑問を投げかけています。
まとめ
今回の研究では、鉄欠乏性貧血があると、生後9〜12ヶ月時点での認知機能や社会情緒にすでに影響が出ていることが示唆されています。
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