疫学

小児の肥満と鉄欠乏は関連しているのかもしれない【論文とその考察】

小児の肥満と鉄欠乏の関連性について知りたい方へ

小児肥満が小児の健康に悪影響であることは知っているけれど、鉄欠乏性貧血の原因となりうることは、あまり知られていないでしょう。
また、この両者がどのようなメカニズムで関連しあっているか、直感的に分かりづらいと思います。

そこで、本記事では下記の論文をピックアップし、解説していこうと思います。


Dr.KID
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肥満と鉄は関係がなさそうで関係している??

本記事の内容

  1. 肥満と鉄欠乏の背景知識
  2. 研究方法
  3. 結果とその考察

こちらの研究は、アメリカで行われる全国調査(NHANES)のデータを使用されています。様々な地域からランダムに抽出されるため、広く一般化できる研究になります。

Dr.KID
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同様の全国調査はアメリカだけでなく、韓国などでも行われています。

研究の背景

アメリカをはじめとした先進国や、近年では途上国でも小児肥満は増加しており、公衆衛生上の問題となっています。

アメリカでの小児肥満は深刻な問題で、1970年から1990年にかけて5%から15%へと3倍増えています。

さらに2010年代には30%にまで肥満が増加して、ようやくプラトーに達しているようです。 

Dr.KID
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肥満大国アメリカ…

鉄欠乏に関する背景

小児の栄養不足で最も多いのが鉄欠乏です。
近年、小児の鉄欠乏による問題点が指摘されて、

  • 熱性けいれんを起こしやすくなる
  • その後の認知機能に悪影響があるかもしれない
  • 成人期での運動機能に影響するかもしれない

と言われています。

CDCやAAPによると、

  • 9-12ヶ月の小児
  • ハイリスクの幼児
  • 思春期の女児

が鉄欠乏性貧血のスクリーニングが推奨されています。

Dr.KID
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鉄欠乏は単なる栄養不足ではなく、将来の発達や疾患に関連している可能性が数多くの研究から指摘されています。

研究の目的

肥満と鉄欠乏のリンクを調査した研究は少なく、本研究が行われています。

研究の方法

1988-1994年度のNHANESデータ(アメリカ)を利用して、2−16歳の小児を対象に横断研究が行われました。

鉄動態として、

  • トランスフェリン飽和度
  • エリスロポエチン濃度
  • フェリチン濃度

を計測し、このうち1つでも異常がある場合に鉄欠乏と判断しています。

肥満に関してはCDCの定義する年齢・性別で調節したBMIのz-scoreを計測し、

  • 過体重:> 85%ile
  • 肥満:> 95%ile

で層別化し、鉄欠乏との関連性を検討しています。

Dr.KID
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世界的には小児肥満の定義はBMIのz-scoreをもとに算出されています。

研究の結果と考察

9698人の小児が対象となり、

  • 過体重:13.7%
  • 肥満:10.2%

でした。

年齢別で見た鉄欠乏は、

  • 12〜16歳で4.7%
  • 2〜5歳で2.3%
  • 6-11歳で1.8%

でした。

 肥満と鉄欠乏の組み合わせ

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論文中のTable 2を拝借しています。

  • 2〜5歳の過体重:2%が鉄欠乏
  • 12〜15歳の過体重:1%が鉄欠乏

という結果でした。

幼児でも肥満傾向だと鉄欠乏の傾向が強くなっています。

 Logistic regressionを使用すると、正常体重の小児と比較して、

  • 過体重児の貧血のオッズは2.0倍(1.2〜3.5)
  • 肥満児の貧血のオッズは2.3倍(1.4〜3.9)

でした。

Dr.KID
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肥満体型だと、貧血になりやすい可能性があります。

私的な考察

90年代前半でこの肥満率は衝撃の高さですね。

鉄欠乏と肥満の関連性ですが、一部は貧困と関連していると考えています。
貧困家庭は栄養が偏りがちになるため、鉄欠乏になりやすいのだと思います。

一方で、今回の解析では貧困も考慮しているので、全ての鉄欠乏が貧困で説明可能なわけではなさそうです。

著者らの考察で面白いと思ったのが、運動不足と鉄欠乏の関連です。
運動をすると筋肉が一時的に損傷されるため、筋肉から鉄が血中に放出されます。
運動不足による肥満だと、この放出された鉄を赤血球が利用できないので、貧血になりやすくなるそうです。

Dr.KID
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メカニズムはあくまで仮説レベルですが、興味深い考察だと思いました。

まとめ

今回の研究では鉄欠乏と肥満の関連性が示唆されています。

私個人としては、鉄欠乏が肥満を、肥満が鉄欠乏を直接起こすわけではなく、何か共通する原因(例えば運動不足や貧困)がこの両者を繋いでいる気がしてなりません。

Dr.KID
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肥満と鉄欠乏が関連しているのはわかったけれど、具体的なメカニズムはまだ不明ですね。今後の研究を待ちましょう。

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ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。