最近は抗菌薬の適正使用が叫ばれていますが、これまでの日本国内では、抗菌薬の乱用はひどいものでした。
例えば、小児がよく罹患するマイコプラズマですが、こちらの菌は一時期、9割が耐性菌とまでいわれていました。
気軽に処方されている抗菌薬(抗生剤)ですが、思わぬ副作用があります。
例えば、
- 下痢
- 薬疹(薬へのアレルギー)
などが代表的でしょう。
今回は、こちらの研究をピックアップしました。
成人を対象とした論文でしたが、非常に興味深かったため、読ませていただきました。(ご容赦ください)
研究の背景
薬のアレルギーについて
およそ3人に1人は、薬に対してアレルギー反応を起こすと考えられています。
その中で、ペニシリンに対するアレルギーが最も多く、5〜16%はペニシリンに対してアレルギーがあると考えられています。
ペニシリン系抗生剤としてよく処方されるのは;
- サワシリン®︎、ワイドシリン®︎
- ビクシリン®︎
- クラバモックス®︎、オーグメンチン®︎
- ユナシン®︎
などが代表的でしょう。
ペニシリンアレルギーのデメリット
『ペニシリン系の抗生剤に対してアレルギーがあります』と診断されると、その後の診療に大きな影響があります。
一般的に、ペニシリン抗菌薬は狭域の抗生剤で使い勝手がいいです。
少し極端な話をしますと、仮にペニシリン系に対して耐性菌ができてしまっても、代替薬はたくさんあるわけです。
ですが、ペニシリン系の抗菌薬にアレルギーがあると、より広域な抗菌薬(例えばセフェム系)を処方せざるをえなくなります。
広域な抗菌薬を処方し、耐性菌が増えてしまった場合、代替薬に苦心することになります。
ペニシリンアレルギーは誤診のこともある
ペニシリン系の抗生剤を内服して、発疹がでたため
「ペニシリンアレルギーですよ」
と言われてしまうことがあります。ですが、この判断は少し慎重にしたほうがよいかもしれません。
とある研究によると、「ペニシリンアレルギー」と言われた患者さんを、後にアレルギー専門医に検査をしてもらうと、95%は本当はアレルギーがなかったです。
広域な抗生剤を使用すると、
- MRSA(メチシリン耐性黄色ぶどう球菌)
- C difficile
といった、感染症のリスクがあがります。
今回の研究では、ペニシリンアレルギーと診断された患者が、これらのリスクが上昇していないかを確認しています。
研究の方法
今回はイギリスで1110万人のデータを対象に研究が行われています。
研究デザインは、マッチングをしたコホート研究です。
ペニシリンアレルギーと診断された人 vs. そうでない人で
- 年齢
- 性別
- 研究参加時期
を使用して1:5でマッチングしています。
つまり、ペニシリンアレルギーと診断された人が1人に対し、
- 同じ年齢
- 同じ性別
- 同じ時期
に5人のコントロールをマッチさせたのです。
暴露因子(exposure)とアウトカムについて
- 暴露因子:ペニシリンアレルギーの有無
- アウトカム:MRSA or C. difficile 感染
としています。
交絡因子として、BMI、社会経済地位、喫煙、飲酒などを統計学的に対処しています。
検定方法
- Cox proportional hazard model
- Poisson regression
前者の検定方法は、MRSA or C difficileの感染が起こるまでの時間を計測し、Cox proportional hazard modelを使っています。
後者の検定方法では、人年法を使って、
- Incidence Rate(IR) = イベント数 / Person-time
を計算し、IRの比(IRR)を計算しています。
今回のイベント数は、キノロン、マクロライド、クリンダマイシンなど、βラクタム系以外の抗菌薬の処方回数です。
研究の結果
- ペニシリンアレルギー:64,141人
- マッチしたコントロール:237,258人
が同定されました。
ペニシリンアレルギーとMRSA/C.difficile感染
MRSA感染とC difficile感染は、ペニシリンアレルギー患者とそれ以外で、
- MRSA: 442人(アレルギー)vs. 923人(コントロール)
- C. difficile: 442人(アレルギー)vs. 1246人(コントロール)
を認めました。Cox proportional hazard modelで Hazard Ratio (HR)を推定すると、
- MRSA: HR = 1.69 (95%CI, 1.51〜1.90)
- C. difficile: HR = 1.26 95%CI, 1.12〜1.40)
という結果でした。
ペニシリンアレルギーとβラクタム系以外の抗菌薬の処方
ペニシリンアレルギーがあると、βラクタム系以外の抗菌薬を処方せざるをえなくなります。
種類別にみると、ペニシリンアレルギーがあると
- ペニシリン:0.3倍
- マクロライド:4.5倍
- クリンダマイシン:3.89倍
- キノロン:2.1倍
- テトラサイクリン:1.75倍
という結果でした。
まとめ
ペニシリンアレルギーと診断されると、βラクタム系以外の抗菌薬(マクロライド、クリンダマイシン、キノロン、テトラサイクリンなど)の処方が増えます。
さらに、MRSAやC.difficileといった感染症のリスクを上昇させることがわかりました。