原因と結果(効果)について
「それって、因果関係があるの?」
「この問題の因果関係は証明されていない」
など、普段の何気ない会話で「因果関係」という言葉が使われていることがあります。
確かに「因果関係」といわれると、もっともらしく聞こえますし、なんとなくインテリな響きが漂ってしまいます。
しかし、「因果関係」と発した本人が、本当に因果関係の概念を理解しているかは怪しいことが多いです。
最初の一歩は前後関係
因果関係のはじめの1歩は、前後関係を確かめることから
因果関係に必要な条件の1つですが、「原因が先にあって、結果が後にある」といえます。
葉酸と髄膜瘤を例に
例えば、妊娠前からの摂取が推奨されている葉酸について考えてみましょう。
葉酸摂取する理由は様々ですが、1つの理由に「脊髄髄膜瘤の予防効果がある」ためです。
逆にいうと「葉酸不足だと、こどもに脊髄髄膜瘤ができる」といえます。
ここで、1つの以下の因果関係が思い浮かびます:
- 葉酸不足と脊髄髄膜瘤には因果関係がある
といった場合、「葉酸不足が原因」となり「脊髄髄膜瘤が結果」となります。
このように、どちらが先で、どちらが後かを考えることが、因果関係を考える第一歩になります(もちろん前後関係だけでは、因果関係は証明できません)。
「反事実」って知っていますか?
因果関係を語る上で、この「前後関係」以外にも、もう1つ重要な条件があります。
それは「もし原因がなければ、結果は起きなかった」という事実です。この「もし原因がなければ」のことを「反事実(counterfactual)」といいます。
先ほどの葉酸の例でいうと
- 妊娠前から葉酸を摂取し、こどもは脊髄髄膜瘤にならなかった(事実)
- 妊娠前に葉酸を摂取せず、こどもは脊髄髄膜瘤になった(反事実)
という事実と反事実の2つがあって、初めて「因果関係がある」といえます。
反事実の計測方法について
勘がいい方はひょっとしたら「反事実はどうやったら確認できるの?」と疑問に思ったかもしれません。
冗談のように聞こえるかもしれませんが、「タイムマシーンがあれば確認できます」が1つの答えになります。
なぜタイムマシーンがあると因果関係を説明できるのか、説明していきましょう。
研究者が
- 妊娠前に葉酸を摂取したAさん
- 妊娠前に葉酸を摂取しないAさん
の2つのデータがあればわかります。
例えば、妊娠前に葉酸を摂取せず髄膜瘤のあるAさんの子供を確認した研究者が、タイムマシーンで妊娠前に戻りAさんに葉酸を摂取するように指導する、という方法で反事実は得られます。
このことを「反事実モデル(Counterfactual-model)」などと言われています。
反事実モデルは因果関係の証明だけにとどまらず、さらに因果関係のタイプを分けることも可能となります。
因果関係には4つのタイプがある
統計や疫学の専門家でも意外と知らないことがあるのですが、因果関係には4つのタイプがあります。
- Immune (免疫)
- Causative(原因)
- Preventive(予防)
- Doomed (運命)
タイムマシーンがあれば、ある人にとって治療(葉酸)が結果(脊髄髄膜瘤)にどのように影響するのかは、必ず4つのタイプのいずれかに落とし込めます。
1) Immune(免疫)とは
Immune(免疫)とは、その名の通り、そもそも結果(髄膜瘤)が起こらない人のことをいいます。つまり
- Aさんが葉酸を摂取しても、髄膜瘤が起こらない
- Aさんが葉酸を摂取しなくても、髄膜瘤が起こらない
Aさんの子供のことをいいます。
このAさんの子供は、葉酸の摂取の有無にかかわらず髄膜瘤が起こりません。
2) Causative(原因)とは
Causative(原因)とは、とある原因があると結果が起こり、とある原因がないと結果は起こらないことをいいます。葉酸と髄膜瘤の例でいうと、
- Aさんが葉酸を摂取すると、こどもに髄膜瘤ができる
- Aさんが葉酸を摂取しないと、こどもに髄膜瘤ができない
といえます(少し天邪鬼な解説ですみません…)。
つまり、このCausative(原因)のケースでは、とある原因(葉酸)が結果(髄膜瘤)の誘引になっているといえます。
*実際のところ、葉酸摂取は髄膜瘤の誘引にはなりませんので、ご安心ください。
3) Preventive(予防)とは
Preventive(予防)とは、とある原因(葉酸)が結果(髄膜瘤)が起こるのを阻止する状態をいいます。先ほどの例でいくと
- Aさんが葉酸を摂取すると、こどもに髄膜瘤ができない
- Aさんが葉酸摂取をしないと、こどもに髄膜瘤ができる
といえます。
この場合、葉酸摂取は髄膜瘤を予防(Prevent)しているといえます。
4) Doomed(運命)とは
Doomed(運命)とは、どうであれ結果が起こってしまう人のことをいいます。葉酸の例ですと、
- Aさんが葉酸を摂取しても、こどもに髄膜瘤ができる
- Aさんが葉酸を摂取しなくても、こどもに髄膜瘤ができる
といえます。
この場合、この子供は髄膜瘤ができる運命(Doomed)であったといえます。
これまでの話を表にまとめると、以下のようになります:
本当に因果関係は確認できるのか?
個人レベルでの因果関係の証明はほぼ不可能
因果のタイプは4つある、なんてドヤ顔で解説してきましたが、
「そもそもタイムマシーンなんてこの世になから、因果関係なんて証明できないのでは?」
と総スカンをくらうことが予測できます。
その通りでして、タイムマシーンがなければ「個人レベル」では因果関係の証明はできません。あくまで「個人レベル」です。
つまり、タイムマシーンがなければ
- 葉酸を摂取したから髄膜瘤ができなかったのか
- 葉酸を摂取してもしなくても、髄膜瘤がそもそもできなかったのか
はAさんのこどもという1個人で証明することは不可能です。
集団レベルでの因果関係であれば、証明可能かもしれない
ですが、「集団レベル」での因果関係であれば、タイムマシーンがなくとも(ランダム化比較試験(RCT)を行えば)証明は可能なことがあります。
そして、なぜRCTで因果関係が証明できるか、この4つの因果のタイプからもアプローチできます。
この解説は非常に長くなってしまうので、またの機会に詳しくお話しします。
多数の原因が重なって1つの結果になるときは?
また別の質問として「2つ以上の原因が重ならないと結果がでないこともあるのでは?」も考えられます。
つまり、原因と結果が1:1ではないケースです。
このような時に、どのようなフレームワークが役立つのか、次回にSufficient-Component Modelを説明しながら、解説していこうと思います。
まとめ
因果関係をいうには
- 原因と結果の前後関係
- 事実と反事実
の2つが必要です。仮にこの2つを手に入れることができたら、因果関係のある/なしだけでなく、4つの因果のタイプのどれかに落とし込めます。
参考図書