今回はこちらの論文をピックアップしました。
小児の感染症で抗菌薬を使うケースがあります。特に入院患者では抗菌薬を最初は点滴から始め、途中で経口内服に変更をして、退院するケースが多いでしょう。
この点滴から経口へのスイッチのタイミングは医師の好みであったり、病院の方針であったり、かなりバラバラです。
今回、こちらの論文では点滴から経口へのスイッチのタイミングを各ガイドラインや論文をレビューして、まとめてくれています。
すべての感染症をとりあげるのは困難ですので、(私的にも)役にたちそうな箇所のみ、ピックアップしていきます。
菌血症について
- 肺炎球菌
- 黄色ブドウ球菌
- グラム陰性桿菌
の3つについてのみ記載します。
肺炎球菌の菌血症
- 潜在性菌血症(24時間で発熱なし)
- 点滴は最短で0 日
- 抗菌薬は合計7〜10日投与 - 潜在性菌血症(24時間で発熱あり)
- 点滴は最短で1日
- 解熱し急速の軽快したら経口スイッチ可
- 抗菌薬は合計7〜10日投与 - 敗血症
- 7〜10日間の点滴投与(経口スイッチはなし)
黄色ブドウ球菌の菌血症
- 7〜14日の点滴投与(経口スイッチなし)
- MSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)なら7〜14日
- MRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は14日
*感染性心内膜炎に注意が必要
*骨髄炎・関節炎であれば、点滴は4〜7日でも可
中枢神経の感染症
細菌性髄膜炎
起因菌によって投与期間は異なる。経口スイッチはなし。
- 髄膜炎菌:5〜7日
- インフルエンザ桿菌(Hib):7〜10日
- 肺炎球菌:10〜14日
- GBS(B群連鎖球菌):14〜21日
- グラム陰性菌:21日
- リステリア:21日
脳膿瘍
- 最初の2〜4週は点滴
- 臨床的に軽快し、CRPが正常化したら経口にスイッチ可能
- 合計6週間の抗菌薬投与
呼吸器感染症
咽後膿瘍
- 最初の3〜5日は点滴から
- 解熱し、首を動かせ、経口摂取可能なら内服にスイッチ可能
- 合計10〜14日の抗菌薬投与
乳突蜂巣炎
- 最初の5日間は点滴
- 臨床的に軽快したら経口スイッチ可能
- 合計12〜15日の抗菌薬投与
急性細菌性副鼻腔炎
- 基本は点滴投与は不要だが、全身状態が悪ければ1〜2日は点滴
- 臨床的に軽快したら経口スイッチ可能
- 臨床的に軽快した後、7日間は抗菌薬投与(合計はおよそ10〜14日)
急性頸部リンパ節炎
- 通常は点滴は不要
- 全身状態が悪い or 急速に増大する場合は最初の2〜3日は点滴
- 臨床的に軽快(痛み、熱、大きさ)すれば経口投与可能
- 合計5〜7日
市中肺炎
- 通常は点滴は不要だが、全身状態が悪ければ初期治療は点滴
- 臨床的に軽快すれば経口スイッチ可能
- 軽度の肺炎なら合計3日;中等度以上であれば7日間
筋肉・骨・皮膚の感染症
急性骨髄炎
- 合併症がなければ最初の3〜4日は点滴
- 解熱し、臨床的に軽快し、CRPや血沈が低下傾向なら経口へ
- 合計3〜4週間の抗菌薬投与
化膿性関節炎
- 最初の2〜4日は点滴
- 解熱し、臨床的に軽快し、CRPや血沈が低下傾向なら経口へ
- 合計2〜3週間の抗菌薬投与
蜂窩織炎
- 軽症であれば点滴不要、中等症以上であれば1〜3日
- 解熱・発赤の軽快など臨床的に軽快すれば経口へ
- 合計5〜7日の抗菌薬投与
泌尿器の感染症
下部尿路感染症(膀胱炎)
- 3ヶ月以上なら点滴は不要;3ヶ月未満は初期治療は点滴
- 合計3〜4日の抗菌薬投与
腎盂腎炎
- 3ヶ月以上で経口摂取可能なら点滴は不要
- 3ヶ月未満は初期治療は点滴
- 臨床的に軽快したら経口へ変更
- 合計10日間が基本だが、急速に軽快した場合は7日間でもよい
まとめ
以上が抗菌薬の投与期間と経口へのスイッチのタイミングでした。
日本の病院ではわりと点滴から投与を長く行う傾向にありそうですが、点滴を留置するリスク(感染)もありますので、経口への切り替えのタイミングを見直すきっかけになる良い論文だと思いました。
小児の実臨床で参考にする場合、必ずご自身で文献を参照されてください。
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