今回はこちらの論文をピックアップしました。
母乳栄養は様々な利点がありますが、全く欠点がないわけではありません。
例えば、鉄欠乏や脂溶性ビタミンの欠乏は以前から指摘されています。
今回は日本の小児において、完全母乳栄養とビタミンDをトピックした論文をみつけたので、ご紹介します。
研究の背景
頭蓋癆について
頭蓋癆(ずがいろう)は、頭蓋骨が柔らかくなった状態をいいます。
正常な新生児でも頭蓋癆を認めまずが、近年はビタミンD不足が原因の1つと報告されています。
ビタミンD不足が小児の健康に与える影響
ビタミンDは骨を丈夫にする栄養素ですので、不足してしまうと赤ちゃんの骨が弱くなり変形しやすくなる「くる病」になることがあります。
ビタミンD不足はくる病以外にも;
- 1型糖尿病のリスクが上がる
- 気管支喘息のリスクが上がる
- 下気道感染(気管支炎・肺炎)のリスクが上がる
- 統合失調症のリスクが上がる
など、様々な報告がされています。
研究の目的
今回の研究では、日本の健常新生児で頭蓋癆の頻度をスクリーニングし、さらにカルシウム、ビタミンDなどの代謝を確認しています。
欧米と異なり、日本では完全母乳栄養の新生児・乳児にビタミンD投与は行われておらず、さらにミルクなどにもビタミンDが添加されていない環境で、この研究が行われました。
研究の手法
2006〜2007年の京都にある病院で生まれた1120人の健常な新生児をスクリーニングしました。
頭蓋癆は専門医が診察で診断しています。
1ヶ月後にカルシウム代謝(カルシウム、リン、ALP、副甲状腺ホルモン、25-OHD (ビタミンDの1つ)などが計測されています。
さらにレントゲンを撮影して、二人の専門家でくる病の早期画像所見がないか確認しています。
研究の結果と考察
頭蓋癆の頻度は22%
1120人の新生児のうち、246人(22%)が頭蓋癆と診断されています。
頭蓋癆の診断は、4月〜5月に生まれた子供に多く、11月に生まれた子供に 少ない傾向がありました。
これまで頭蓋癆は「正常の範囲内・生理的な状態」と見なされてきましたが、このように季節変動を示しており、胎児が子宮内でビタミンD不足に陥っていた可能性があります。
頭蓋癆の新生児の1ヶ月後
頭蓋癆と診断された246人のうち、233人が1ヶ月後に再検査しました。
- 63人(27%)は頭蓋癆が残っていた
- 68人(29.2%)は手のレントゲンでくる病の兆候を認めた
結果でした。
これらの結果からも、子宮内でのビタミンD不足は出生時の頭蓋癆の原因になりうるし、適切に介入が行われないと「くる病」のリスクになりうると考えられています。
完全母乳栄養のほうがビタミンD不足の傾向
完全母乳栄養のほうが、血中のビタミンD不足の傾向がありました。
ビタミンDの値が 10 ng/ml以下の新生児はビタミンDの補充が必要と判断し、ビタミンD製剤が処方されました。
完全母乳栄養を行い、ビタミンD不足となっていた新生児は、副甲状腺ホルモンやALPという骨代謝の指標となる数値も異常を示していました。
「くる病」は過去の病気ではない
「くる病」と聴くと過去の病気と答える小児科医もいるかもしれませんが、決して過去の病気ではありません。
アメリカ小児科学会は既にこの事実を深刻に考えており
「新生児全員に1日あたり200単位のビタミンDを赤ちゃんに投与すべき」
とまで勧告しています。
日本ではビタミンKのようにルーチンに投与するシステムはありませんが、特に完全母乳栄養の場合は;
- 産前から母親が1日10〜15分でも日光浴をする
- ビタミンDの豊富な食物を母親が積極的に摂取する
- 乳児も適度に(10分前後でもよいので)日光浴させる
- 完全母乳をする場合、乳児にビタミンDを投与する
といった方法から選択されると良いでしょう。
まとめ
既にアメリカなどではビタミンD不足のケアが新生児からされていますが、現在の日本のシステムでは不十分な印象です。
完全母乳栄養のメリットは非常に多いですが、ビタミンDの不足は注意されたほうがよいと思います。