今回はこちらの論文をピックアップしました。
2009年に国内の施設でされた研究です。
熱性けいれんで入院した患者に、ジアゼパム(ダイアップ)を使用すべきか、という問題に答えています。
研究の背景
熱性けいれんの治療方法は小児科医でもジレンマがいくつかあり;
- 到着時には既にけいれんが止まっている
- 時に受診した乳幼児は既に意識清明になっている
- 一方で、けいれんを目撃しや保護者は恐怖を感じている
といった点があります。
ジアゼパムは2回目以降の熱性けいれんを予防するが、副作用もある
前回、熱性けいれんにジアゼパムを使用すると再発は予防できるが、高率で中等度の副作用を認めることを説明してきました:
また、前回はけいれんの再発予防で使用したジアゼパムの有効性は、発熱の原因となった感染症が改善して、その後になんらかの感染をきっかけに発熱した際のけいれん発作をアウトカムとしてみていました。
今回のこの研究は、熱性けいれんで受診された乳幼児にジアゼパム(ダイアップ)を使用して、同じ発熱期間中に熱性けいれんの再発を予防できるかみています。
研究の方法
この研究は;
- 2004〜2006年
- 熱性けいれんで入院した5歳以下の患者(203人)
を対象に、単施設でされています。
治療群とコントロール群は、RCTではなく:
- 2004年12月〜2005年5月:ジアゼパムを入院時に使用
- 2005年6月〜2006年3月:ジアゼパムを入院時に使用しない
と入院時期で決めて行われています。
結果、95人の入院患者にジアゼパムが使用され、108人には使用されませんでした。
アウトカムには入院期間中の熱性けいれんの再発をみています。
研究の結果
ジアゼパムを使用した群と使用しなかった群では、体温以外は統計学的に有意な差がありませんでした。
熱性けいれんの再発率(全患者で比較)
再発率は;
- ジアゼパム使用群:2.1% (2/95)
- ジアゼパム非使用:14.8% (16/108)
となっています。
Chi-square検定をして、P値は0.0021と、統計学的な有意差を認めました。
熱性けいれんの再発率(熱性けいれんの既往なし)
初回熱性けいれんのみにすると、入院中の再発率は:
- ジアゼパム使用群:1.4%(1/73)
- ジアゼパム非使用:14.8%(12/81)
となります。こちらもP = 0.0027と統計学的な有意差を認めています。
研究の考察
熱性けいれんで入院が必要であった患者にジアゼパムを使用すると、入院期間中の再発率は有意に低下していました。
確かに入院するレベルであれば、外来より積極的に使用されてもよいと思います。
入院患者と外来患者では、受診した時の状況がかなり異なりますので、この結果を外来での診療に適応するのは困難でしょう。
外的妥当性(external validity)は慎重に
とはいえ、入院期間中にけいれんが再発する場合、医療者・保護者・患者すべてに負担がかかるため、入院中に副作用をモニターできる状態であれば、ジアゼパムを使用するのも治療の選択肢の1つと思いました。
もちろん、抗けいれん薬を使用することで、髄膜炎や脳症の症状をマスクしてしまう可能性はあるので、議論は大きく分かれると思います。
疫学的な考察
Risk Ratio、Risk Differenceを使えば解釈しやすくなる
再発率は;
- ジアゼパム使用群:2.1% (2/95)
- ジアゼパム非使用:14.8% (16/108)
とありましたが、数字の並列をするより、差や比をとったほうが解釈しやすくなります:
- Risk Difference:-12.7%(=2.1% – 14/8%)
- Risk Ratio :0.14倍(2.1%/14.8%)
ここから、ジアゼパムを使用すると、熱性けいれんのリスクは12.7%減少した(Risk Difference)、あるいは0.14倍になった(Risk Ratio)、と解釈できます。
(Chi-square testなら)95%信頼区間も手計算でできますが、面倒であれば統計ソフトを使用されるとよいでしょう。
今回はchi-square testを使用されていたようですが、5未満の項目がある場合はFisher’s exact testを使用するほうが統計学的には正確かもしれません。
RCTとBefore-After testについて
今回はRCTではなく、Before-After testが行われています。
RCTができる状況であれば、RCTを選択するほうがよいのは自明ですが、施設毎や倫理的な制約でRCTをできなくなることがあります。
「病院に入院する患者はランダムである」と仮定をおけば、ある期間の前と後で分けて比較することも可能です。
しかし、この手法では交絡因子を十分に対処できないことがあります。
例えば、前期より後期で発熱の原因となるウイルスが大きく異なる場合、けいれんの再発率が異なる可能性もありえます。
EfficacyとEffectivenessについて
(言葉の定義は様々ですが)Efficacyとは、biological(生物学的)な有効性のことを指します。
疫学でこれを置き換えると、理想的なRCTのもと計測された治療効果と解釈できます。
一方、effectivenessは、実臨床で使用した場合に認める有効性のことを指します。
Efficacyが高くても、Effectivenessは低いことがあります
Efficacyが高くても、Effectivenessが低いことがあります。
例えば、性感染症の予防で行うコンドームや予防内服が良い例でしょう。
全ての人がプロトコール通りに使用すれば有効ですが(High Efficacy)、なかには遵守できない人がいるため有効性が下がります(Low Efficacy)
今回の論文のタイトルは「Efficacy」とされていますが、(疫学者的には)「Effectiveness」のほうがしっくりくる印象でした。
Before-After testでは、RCTのような理想的な状況を想定しづらいからです。
まとめ
ジアゼパム(ダイアップ)の使用は、入院した熱性けいれんの患者において、けいれんの再発するリスクを有意に低下させた。
とはいえ、ジアゼパムを使用するリスクとベネフィットがありますので、慎重に検討するべきでしょう。