- こどもが急に吐いてしまいました
- 下痢が続いています
- 脱水は大丈夫でしょうか?
など、急な嘔吐・下痢の対処法や水分摂取に困ってしまう方も多いのでしょう。
嘔吐や下痢は、原因となる病原体(主にウイルス)を体の外に出そうとする防御反応のひとつですし、これらは薬で無理に止める必要はありません。
ですが、水分を適切にとらないと脱水を起こすこともあります。
今回は、嘔吐・下痢時の水分摂取について、簡単に説明していきます。
嘔吐・下痢時の水分摂取法のまとめ
- 吐いた後 1〜2時間くらいは水分・食事摂取を我慢しましょう
- 最初はスプーン1杯程度の少量から開始しましょう
- 15分程度の間隔をあけながら、ゆっくりと水分を与えるようにしてください
- お茶・水よりもOS-1などの経口補水液がよいでしょう
- 嘔吐が続くときは医療機関に受診しましょう
嘔吐した時の水分摂取方法についてのポイント
胃腸炎で体調が悪いとき、こどもは嘔吐してしまうことがあります。
まずは、嘔吐してしまった時の、水分摂取方法について解説していきます。
嘔吐した直後は、ちょっと休憩を
吐いた直後に水分・食事を再開しても、再度、嘔吐することが多いです。
このため、こどもが嘔吐したら1〜2時間くらいは飲食を避けましょう。
再開は少量の水分から
嘔吐して1〜2時間くらい経過したら、水分を開始してみましょう。
水分はスプーン1杯(約5 ml)から始めましょう。
これは、少量の水分を飲んでも嘔吐しないか確認するためです。
嘔吐後の水分摂取で重要なポイントは『少量をこまめに』です。
10分〜15分間隔で、少量の水分を徐々に増量させながら、繰り返しあげましょう。
あげる水分について
『水分』と聞くと、ついついお茶や水をあげたくなります。
ですが、お茶や水は、腸での吸収が悪いです。
塩分・糖分が適量含まれている『経口補水液』をお勧めしています
体の機能を維持するのに重要なのは水分・塩分・糖分です。
経口補水液は、これらの組成のバランスがよく最適な飲料といえます。
アクエリアス・ポカリスエットなどスポーツドリンクは塩分が少なく、糖分が多く、ややバランスが悪いです。
自宅で経口補水液を作る方法
経口補水液は、自宅でも簡単に作ることができます。 準備するものは;
- 水1リットル
- 塩小さじ1杯
- 砂糖大さじ 5杯
です。これで市販の経口補水液とほぼ同じの組成になります。
飲みにくいと思ったら、レモン果汁などを入れて味付けをするとよいでしょう。
どのくらい水分をとればよいか
1日の水分摂取量の目安は、『 体重1kgあたり 50-100ml程度』です。
この計算でいくと ;
- 5 kgなら 250〜500mL
- 10kgなら500〜1000mL
の計算になります。特に水分しか採れないときは、この量を目安にしましょう。
嘔吐・下痢をした時の食事について
水分摂取できて嘔吐が治まって、おしっこも出ているようでしたら、食事を少量から開始しましょう。
『下痢の時は、食事をしてはいけない』と指導する小児科医もいまだにいますが、下痢で食事を止める必要は全くありません。
乳幼児のミルクは薄めなくても大丈夫ですし、 母乳をやめる必要もありません。
母乳やミルクは続けても良いです
下痢の量や性状に関係なく母乳は継続するとよいでしょう。
ミルクを薄めたりする必要もなく、普段通りのミルクを与えて下さい。
胃腸炎が長引く場合、乳糖を含まないミルク(ノンラクトなど)を使用してもよいですが、最初からこだわる必要もありません。
私個人としては、2〜3週間程度、下痢が長引いているようなら、一過性の乳糖不耐症を疑い、乳糖を含有しないミルクを進めています。
下痢がひどくても、食事を食べさせてよいですよ
『下痢がひどいときは、何も食べさせずに、水分だけでいい』
と日本では昔から言われてきました。
しかし、この治療法には全く科学的な根拠がありません。
現在は、普通の食事をさせたほうがいい、と分かっています。
下痢のときの食事は大規模な臨床研究が既にされており;
- 早期に食事開始した場合
- 最初は絶食し、水分摂取のみをした場合
を比較しても、どちらも嘔吐や下痢の頻度はかわりません。
しかも、早期に食事を開始したほうが、下痢や嘔吐で減ってしまった体重が早く元に戻るとわかっています。
このように、下痢があっても絶食にするメリットはほぼありません。
下痢でも、食事の栄養素はある程度は吸収されています
下痢があっても食事の栄養素はかなり吸収されています。例えば;
- 炭水化物の90%
- タンパク質の70%
- 脂肪の60%
は吸収されます。
ですので、下痢だからといって、絶食し水分摂取のみにする必要は全くありません。
消化の良い食事、悪い食事
『消化のよいものを食べてくださいね』
と外来でアドバイスされることも多いです。
ですが、消化の良し悪しの基準は曖昧で、保護者によって異なると思います。
以下に一覧を載せるので、参考にしてください:
あくまでも目安ですので、こちらを必ずしも遵守しなくてよいと考えています。
胃腸炎(嘔吐・下痢)の治療について
ここからは、嘔吐・下痢の治療について、簡単に説明していきます。
吐き気止めの効果は乏しいですよ
まずは吐き気止めの有効性に関してです。
吐き気止めとして有名なのだ、ナウゼリンやプリンペランが代表的ですが、有効性は認めていません。
安易に使用しないほうが良いでしょう;
下痢止めは使用しないで!
下痢止めを使用しても、下痢の期間は短縮できないことが分かっています。 さらに、下痢止めは、胃腸炎の原因ウイルスの排泄を邪魔します。
抗生剤もいらないです
胃腸炎はウイルス性ですので、抗生剤はそもそも無効です。
抗生物質は細菌には効きますが、ウイルスには全く効果がありません。
ですので、下痢で抗生物質を処方する理由はほとんどありません。 胃腸炎で理由なく抗生剤を処方する医者は、基本ヤブ医者と思って下さい。
プロバイオティクスは効きますか?
プロバイオティクスは、腸内細菌のバランスを整えることで、有益な作用をもたします。
免疫力の増強、病原菌による感染の抑制、腸の蠕動運動の促進などの有益な作用があります。 ビオフェルミン、ラックビー、ミヤBMなどがプロバイオティクスとしてよく処方される薬です。 有効性に関しても既にいくつか証明されていて、ロタウイルス腸炎に対する効果があるともいわれています。
下痢の期間が短縮するともいわれています。
*プロバイオティクスの一部は牛乳アレルギーのある子に関しては投与禁忌となっているため、注意が必要です。
亜鉛について
亜鉛は体の酵素活性に関連していて、さらに消化管粘膜の抵抗性を高めるといわれています。
下痢の場合、腸管から亜鉛の排泄が増加して亜鉛欠乏になりやすいといわれています。
あくまで発展途上国からのデータが根拠ですが、WHOやUNICEFは胃腸炎の治療として、1日 10〜20 mgの亜鉛摂取を推奨してします。
亜鉛の必要量は、
- 乳児は 5 mg/日
- 1〜10歳 10 mg/日
- 11〜18歳で男 15 mg/日、女性 12 mg/日
といわれています。
亜鉛は牡蠣などに多く含まれ、肉類、種実類、豆類などにも多く含まれています。
長期間にわたり食事摂取ができず、栄養状態が悪い場合には、亜鉛の多く含む食品などをとられるとよいかもしれません。
医療機関受診の目安を教えてください
あくまで目安ですが、
- 血便を認める時
- 嘔吐が続き、水分摂取が困難な時
- 半日以上も尿が出ない時
- 口の中の粘膜が乾燥しているとき
- 眠りがちで、かなりぐったりしている時
は受診されて良いと思います。
その他、心配な点があれば医療機関に受診しましょう。
脱水を疑う症状を教えて下さい
大人と比べて、こどもは水分を調節する機能が未熟なため、脱水になりやすいです。
脱水を疑うときは:
- 大量の下痢が1日 5-6回以上ある
- 嘔吐が12時間以上続いている
- 唇、舌や口の中が乾燥している
- 涙が出ない、目が落ち窪んでいる
- 皮膚がたるんでいる、しわが急にできる
- ぼんやりして眠りがち ・顔色が悪い
- 排尿が半日から1日以上ない
でしょう。
このような症状がある場合、無理せずに病院に受診されても良いでしょう。