RSウイルスって何ですか?
『RSウイルス』はどこかで聞いた、という方が多いのではないでしょうか。
ですが、「RSってなに?」と、どこか馴染みのない名前のウイルスかもしれません。
RSの言葉の由来ですが、RSは『Respiratpry Syncytial』 の略です。
- “Respiratory” は呼吸器
- “Syncytial”は合胞体
という意味で、この頭文字をとってRSと読んでいます。
RSウイルスを日本語に意訳すると、『呼吸器(つまり空気の通り道)に感染するウイルス』です。
RSウイルス感染の特徴
RSウイルス感染症は、乳幼児など小さな子供で感染をしやすく、
- 風邪
- 気管支炎
- 肺炎
といった呼吸器の感染症の原因ウイルスです。
ほとんどはかぜの症状で収まってしまいますが、特に小さな赤ちゃんほど重くなりやすい傾向にあります。
基本は冬に流行しますが、夏に流行ることもあります
冬期に流行することが多いです。
ですが、近年は夏期(8月〜9月)でも流行が多数報告されており、外来・入院患者は1年を通しています。
RSウイルスは2歳までに感染します
RSウイルス感染は、1歳で50%〜70%、2歳でほぼ100%が感染します。
インフルエンザみたいに、RSウイルスもA型とB型がありますが、現在使用している迅速検査ではA型、B型の区別はできません。
繰り返し感染を起こすことがあります
「1回感染したから、もう免疫がついてかからないのでは?」
と考えてしまいたくなります。
ですが、このウイルスに対しては、免疫がうまくできないことが多く、繰り返し感染を起こすことがあります。
朗報としては、繰り返し感染をすると、徐々に症状が軽くなります。
ですので、2歳以上のお子さんで感染をしても「単なる鼻かぜ」で軽快してしまうことがほとんどです。
RSウイルスに感染した時の症状
RSウイルスの症状は軽い風邪症状から重い呼吸器症状まで、とても幅広いです。
風邪の症状で終わることがほとんどです
RSウイルスは、
- 咳
- 鼻水
- くしゃみ
といった風邪の症状がでます。
特に最初は風邪との見分けもつかないことがほとんどです。
ほとんどのお子さんは、この風邪症状で軽快してしまうので、大きな心配はいらないことが多いです。
『RSウイルスが流行していて怖いです』
と相談されることもよくありますが、基本はただの風邪で終わりますので、大半のお子さんは特別に恐れる必要はありません。
悪化すると細気管支炎や肺炎になります
RSウイルスに感染して、3日〜7日程度すると、一部の子どもで喘鳴がでます。
喘鳴とは「ヒューヒュー・ゼーゼー」といった音が、呼吸する度に聞こえる状態です
これは、痰が詰まってしまい、呼吸がゼーゼーしているのです。
さらに呼吸の症状がひどくなると、陥没呼吸,努力呼吸といって、苦しそうな呼吸をします。
この場合、入院が必要になることがあります。
時に、数時間で重症化してしまうことがありますので、注意が必要です。
RSウイルスが細気管支炎や肺炎になりやすい理由
RSウイルスは、比較的狭い空気の通り道(細気管支)を好んで感染し、ここにある上皮細胞を破壊します。
このため、空気の通り道が浮腫んだり、炎症を起こしたり、痰が排出しづらくなります。
結果として、空気の通り道が狭くなり、喘鳴を起こしてしまうのです。
RSウイルスの感染経路
RSウイルスは咳や痰などの飛沫および接触で感染します。
感染してから病気が発症するまでの潜伏期間は、4日〜6日です。
さらに、RSウイルス感染の症状がでてから、2週間程度はウイルスを排出しています。
感染力について
感染力とは、「ウイルスが他人に感染する能力」というとわかりやすいでしょう。
RSウイルスは感染力が比較的強いです。
- 咳などを介した感染(飛沫感染)
- 鼻水など手を介した感染(接触感染)
の両方で感染します。
RSウイルスの検査
RSウイルスの検査は、迅速検査とPCR検査の2種類があります。
RSウイルス抗原の迅速検査
鼻の分泌物からウイルスの抗原を検出して診断するキットです。
この検査はインフルエンザの迅速検査とやり方は同じです。
検査結果は15分程度で判明するので、クリニックでもよく利用されていると思います。
保険適応となるのは『1歳未満 and/or 入院治療が必要な小児』が基本です。(基礎疾患のあるお子さんも対象になり得ます)
『保育園の先生にRSウイルスにかかっていないか、小児科にいって検査をしてきてください』
と検査を希望されて受診することがあります。
検査には保険適応があり、元気な咳や鼻水があっても元気なお子さんには検査は不要ですから、注意しましょう。
(どうしても見たい場合、自費で検査を受けてもらうこともあります。大体、3000〜5000円くらいで診てくれるところが多いようです)
PCR検査
PCR検査は、鼻水に含まれるRSウイルスの遺伝子を、特殊な機械と溶液を使用して増幅させる検査です。
迅速検査よりもはるかに正確な検査ですが、行える施設はかなり限られています。
RSウイルスの治療
治療法ですが『インフルエンザにはタミフル』のような特効薬はありません。
つまり、RSウイルスにだけ効き、ウイルスを撃退してくれるお薬はありません。
ですので、基本的にはかぜと同じ対処で、
- 適切な水分摂取
- 解熱薬
- 呼吸が苦しければ吸入
などでの対症療法を行いながら様子をみます。
吸入薬について
病院でよくされている治療法として、吸入薬があります。
吸入薬もいろいろ種類がありますが、有効性をまとめると以下の通りです:
- β2刺激薬(メプチン・ベネトリン):有効性なし
- エピネフリン吸入(ボスミン):有効なこともある
- ステロイド吸入(パルミコート):有効性なし
- 濃い生理食塩水吸入(3%食塩水):有用性なこともある?
です。
重症化しやすい子供
RSウイルスに感染して重症化しやすいこどもは一定の傾向があり:
- 低年齢(特に3ヶ月未満)
- 先天性の心疾患 ・慢性肺疾患
- 早産児(未熟児)
- 遺伝疾患(ダウン症など)
がいわれています。
特に、生後6週未満では無呼吸を起こすことがあるため、非常に注意が必要です。
受動喫煙も悪化因子
近年、受動喫煙もRSウイルス感染症の重症化の原因になりうることが分かっています。
予防の薬に関して
RSウイルスの予防薬として、シナジス®︎(一般名:Palivixumab)という薬があります。
RSウイルス特異的モノクローナル抗体といい、RSウイルスに感染しないように体に防御を作ってくれる薬です。
シナジスの適応は:
- 2歳以下である
- 慢性肺疾患, 先天性心疾患,ダウン症など
を満たす場合に対象となります。
非常に高額な薬品であるため,重症化しやすいお子さんに限定して使用しています。
まとめ
RSウイルスは夏の後半(8月くらい)〜冬場にかけて流行するウイルスです。
軽ければかぜの症状ですみますが、重症になると呼吸が苦しくなったり、肺炎・気管支炎を起こしてしまいます。
呼吸が苦しそう、水分がとれないなど、お困りのことがあれば、医療機関に受診しましょう。
手洗い・マスクなどで感染のリスクは下げることができます。感染対策として、日常的に行うようにしましょう。
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◎ RSウイルスは鼻水・痰などの分泌物が増えます。クリニックだけでなく自宅でも鼻をすってあげるとよいでしょう。