小児科

時間外受診・開業医・非小児科は、こどものかぜに抗生剤を処方する傾向がある【かぜに抗菌薬は不要】

風邪に抗生物質は不要です

前回、こちらの記事で風邪に抗生物質が不要と説明してきました。
簡単にまとめると:

  • 風邪はウイルス感染がほとんど
  • 抗生物質は細菌には効くが、ウイルスには効かない
  • 風邪に抗生物質を使用するのは科学的根拠のない治療
  • やみくもに抗生物質を処方すると耐性菌が増える

でした。

厚労省も小児科学会も抗生剤の適正使用を進めている

Antibiotics 

欧米に遅れること10年以上!?

日本でもようやく抗生剤の不適切使用が問題視され、今後、抗生剤の使用を減らしていく方向に向かっています。

厚生労働省も日本小児科学会も、適切な感染症診断を行い、抗生剤の適切な選択、適正な量と期間での治療を推奨しています。

Dr.KID
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いつも世界のトレンドから遅れる…

抗生剤乱用の問題点について

不適切な抗生剤の使用は、耐性菌が増加し、医療費増大につながり、薬の副作用のリスクも上がります。

さらに、抗生剤の新規開発は激減しており、耐性菌に対する有効な新規抗菌薬がなくなる危機感もあります。

小児の風邪に抗生剤を処方する医師・病院の犯人探し!?

Police

こちらは2017年4月に出版された論文です。
かなり最新の論文ですが、就学前の小児の風邪に

  • 抗生剤がどの程度使用されているのか?
  • 風邪に抗生剤を使用しているのはどんな医師か?

を解析した研究です。

この研究の背景

まずは、抗生剤の多用・乱用のデメリットですが :

  • 耐性菌の数が増えてしまう
  • 医療コストが上昇してしまう
  • (薬疹など)思わぬ副作用にかかってしまう

といったデメリットがあります。

また、因果関係は定かではありませんが;

  • 子供が早期から抗生剤を使用すると喘息になりやすい
  • 早期から抗生剤を使用すると肥満になりやすい

といった研究結果も続々と出てきています。

Dr.KID
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抗生剤を含め、全ての薬にメリットとデメリットがあります。

海外での抗生剤使用について

海外でも日本と同様に、抗生剤の乱用に頭を抱えているようです。
例えば:

  • ヨーロッパでは、抗生剤処方率が増加傾向にある
  • アメリカでも、広域抗菌薬の処方は増加傾向にある

と報告されています。
このような現状から、抗生剤の適正使用は、世界的に急務といえます。

この研究の方法・手法

JMDC (Japan Medical Data Center)の大規模データを使って;

  • 2005年〜2014年の期間
  • 就学前の小児(15万人)
  • 風邪で受診した小児

を対象に、抗生剤の処方をみています。

『風邪』の診断はICD 10コードという病名分類コードを使って抽出しています。

風邪に抗生剤は不要という前提のもと、それでも抗生剤を処方する医師・病院の特徴を調べています(時間外受診・診療科・病院規模など)

研究の結果と解説

結果をみていきましょう。

処方されている抗生剤の種類

最初は処方されている抗生物質の種類についてです:

  1. 第3世代セファロスポリン:38%
  2. マクロライド系:26%
  3. ペニシリン:16%
  4. アミノグリコシド:7.1%
  5. キノロン:3.7%

の割合で処方されていました。

広域抗菌薬である、第3世代セフェムが最も多く処方されていました。

どうやらアメリカでも同様の傾向で、広域抗菌薬の処方率は上がっているそうです。

Dr.KID
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第3世代セフェム、使いすぎ…

抗生剤を処方される傾向にある患者

抗生剤を処方されやすい患者にも特徴があり:

  • 4〜5歳:1.7倍
  • 男児:1.1倍
  • 時間外受診:1.5倍

となっています。(オッズ比です)

時間外受診で抗生剤処方率が高いのはアメリカなどでも同様の傾向にあるようです。
アメリカの類似の研究でも、救急外来受診すると抗生剤処方率が高かったという結果があります。

抗生剤を処方する病院の特徴

一方、抗生剤を処方しやすい病院の特徴は

  • クリニック(開業医)
  • 非小児科:2.13倍

となっています。

過去の研究では、小児科医は抗生剤処方率が低いというデータがあります。
今回の研究でも、同様の結果といえます。

Dr.KID
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相対的に多いという話でして、全体量として小児科からの処方は少ないというわけではありません。

この研究の問題点

約15万人のデータを使用した研究ですが、それでも問題点はいくつかあります。

1.風邪の診断は?

レセプト情報を使った研究ですので、風邪の診断は定かではありません。
中には溶連菌やマイコプラズマが紛れ込んでいた可能性はありえるでしょう。

ただ、診断の精度をいいだしたら、大規模データの研究は成立しないので、大目に見てもよいかと思いました。

2.母集団について

JMDCのデータベースに登録されている患者は、およそ300万人程度です。

中〜大規模企業に勤務している人とその家族がほとんどです。
日本の人口の一部の方しかカバーできていないので、今回の結果が日本全国を反映するかはちょっと疑問です。

ただし、日本の医療はフリーアクセスですし、小児は医療費の無料化によりアクセスがよい(というか、アクセスが良すぎる)ので、ある程度は一般化してもよいと思いました。

Dr.KID
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限られた対象集団ですので、日本全体で起こっていることかは、少し慎重に考えたほうが良いでしょう。

3.抗生剤処方の原因は医師レベル?クリニック/病院レベル?

この研究では抗生剤の不適切使用が医師レベルの問題なのか、病院やクリニックレベルの問題なのかはよくわかりません。

特に、近年は医師がグループになって開業しているクリニックも多く、「クリニック=1人の医師」レベルの問題ともいえないと思いました。

そうはいっても、開業医の先生は1人院長のことが多いので、医師レベルの問題も大きいかと予測しています。

まとめると

そもそも風邪に抗生剤は不要なのですが、

  • 時間外受診
  • クリニックに所属する医師
  • 非小児科に所属する医師

は抗生剤を風邪のこどもに処方してしまう傾向にあります。

おそらくですが、今後、抗生剤の不適切使用や乱用に何らかの大きなアクションがでてくるのではと思います(処方制限や報告など)。

Dr.KID
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2018年4月から、抗菌薬を処方しないことに対するインセンティブが始まりましたね。

◎ こちらの『抗菌薬の考え方、使い方』は何度も読んでいます

 
ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。