カンピロバクター感染による食中毒
このいびつな形をした病原体がカンピロバクターの正体です。
カンピロバクターによる胃腸炎は増加傾向
日本を含む先進国では、カンピロバクターによる胃腸炎が増加しています。
カンピロバクターは食中毒の原因菌の1つです。
カンピロバクター菌は、ニワトリ・ブタ・ウシなど動物の腸に生息しています。
加熱不十分な食肉、食品の二次汚染、ペットからヒトへ感染するします。
生野菜や汚染した水からの感染することもあります。
カンピロバクター感染の症状
カンピロバクターに感染して食中毒の症状が出るまでの潜伏期間は約3日間です。
その後、下痢・腹痛・発熱・吐き気・頭痛が出てきます。
下痢は水っぽい水様便が多く、時に出血して粘血便が出ます。
牛レバーの生食が禁止になった理由
2005年2月頃から厚生労働省より、ウシの胆汁・肝臓から高率でカンピロバクターが検出されることが報告され続けています。
このため「牛レバーによるカンピロバクター食中毒予防 Q&A」を作り、若年者や高齢者で抵抗力の弱い人は、生肉を食べないように勧告しています。(詳細は以下リンク)
カンピロバクター食中毒の治療法
カンピロバクター食中毒による胃腸炎では、抗菌薬は必要ないことがほとんどでしょう。
水分をしっかり摂取し、安静に過ごし、消化のよいものを食べて自宅で様子を見ます。
基本的には自然治癒しますが、免疫力が低下している場合に重症となることもあるため注意が必要です。
症状がひどかったり、長引く場合に抗菌薬を使うことがあります。
カンピロバクター感染後の合併症
カンピロバクターへに感染して、しばらく経過した後に合併症が起こることがあります。
代表的な合併症は;
- 反応性関節炎
- ギラン・バレー症候群
- 過敏性腸症候群
の3つです。
反応性関節炎について
反応性関節炎は、別名でReiter症候群といわれてます。
これは、カンピロバクターで胃腸炎症状を起こし、しばらくしてから関節炎が起こります。
膝、足、アキレス腱が腫れて痛くなるのが特徴です。
ギラン・バレー症候群 (Guillai-Barre症候群)
ギラン・バレー症候群は、下痢など胃腸炎症状の1〜2週間後に起こります。
手足にピリピリと異常な感覚が出たり、麻痺を起こすこともある神経疾患です。
重症の場合、呼吸筋に麻痺が生じたり、神経の後遺症が残ったり、死亡することさえある恐ろしい病気です。
過敏性腸症候群
便から菌が検出されなくなり、カンピロバクター感染が治ったのに、腹痛や腹部の不快感、下痢・便秘が慢性的に続く疾患です。
サルモネラ感染による食中毒
サルモネラという細菌に感染すると胃腸炎症状がでます。
サルモネラ感染症にも;
- 非チフス性サルモネラ感染症
- 腸チフス・パラチフス
の2つに大きく分類できます。
まずは、前者の非チフス性サルモネラ感染症について説明していきます。
非チフス性サルモネラ感染症
非チフス性サルモネラ感染症は、Salmonella Enteritidisといわれる細菌感染で起こります。
サルモネラ菌は、経口摂取しても、通常は胃酸によって死滅します。
しかし、胃酸不足であったり、胃から腸への食物の通過が早い場合、サルモネラが胃から腸へ感染して様々な胃腸症状を起こします。
サルモネラ菌の感染経路
サルモネラ菌は汚染された食品や水を摂取すると感染します。
汚染されやすい食品は;
- 汚染した食肉・鶏卵
- 牛のタタキ・レバ刺し
- ウナギやスッポン
- 鶏卵を用いたケーキやプリン
- ピーナッツバター
- 汚染した野菜や果物
- 低温殺菌されていないジュース
がよく知られています。
サルモネラは爬虫類に寄生しています
サルモネラは爬虫類に寄生しています。
ミドリガメなど、爬虫類との接触で感染する例が、しばしばあります。
このため、爬虫類は保育施設で飼育しないほうがよいでしょう。
2005年にミドリガメを飼育していた小児2人がサルモネラに感染した事例があります。
この事例から、当時の文部科学省は2006年3月に、小学校と幼稚園では爬虫類の飼育を控えるように全国の教育委員会に通知しています。
しかし、いまだに学校や保育園で爬虫類を飼育している場合もあり、サルモネラ感染症で病院を受診するお子さんが数多くいます。
私個人としても、年に数例程度は経験しており、時に学校や幼稚園へ連絡を入れる場合もありました。
卵にサルモネラが感染する理由
サルモネラ菌がニワトリの卵巣や卵管に感染している場合、卵へと感染してしまいます。
卵白には抗菌作用のあるリゾチームが含まれるため、サルモネラ菌は増殖しません。
しかし、卵が古くなるとリゾチームの抗菌作用は減弱したり、サルモネラ菌が卵黄に侵入して増殖してしまいます。
このため、古い生卵を摂取して、サルモネラに感染することはよくあります。
特に海外では卵の品質管理が甘いため、生卵は食べない方がよいでしょう。
サルモネラ感染による胃腸症状
サルモネラに感染してから症状が出るまでの期間は12〜36時間くらいといわれています。
症状として多いのは:
- 嘔気、嘔吐
- 水様性の下痢
- 粘血便
- しぶり腹
です。
これらの症状以外にも、発熱・寒気・頭痛・筋肉痛を伴うことがあります。
発熱は2〜3日で、下痢は3〜7日で軽快します。
サルモネラ感染の診断について
便の培養検査でサルモネラ感染を診断します。
患者さんの病歴を聞き、疑わしければ便の検査を提出します。
便をとり、専用の培地で細菌を増殖させ、様々な薬液を使用して、サルモネラ菌と診断します。
サルモネラ感染の合併症
サルモネラ菌の合併症として、
- 菌血症
- 関節炎・骨髄炎・血管炎
- 急性脳症(サルモネラ脳症)
- 横紋筋融解症
があります。
これらの合併症に罹患した場合、長期間の入院が必要となります。
サルモネラ感染の治療
基本は水分摂取と安静で様子をみます。
脱水にならないよう、吸収の効率のよい経口補水液を飲むとよいでしょう。
OS-1やアクアライトがオススメです。
基本は抗生剤はいりません
ほとんどの症例で、抗生剤は不要です。
抗生物質を内服しても、サルモネラ感染に伴う腹痛・下痢の症状は改善しません。
そればかりか、サルモネラ菌の排泄器官を延長し、保菌を促すため、抗生物質は使用すべきでないといわれています。
例外はいくつかあり、抗生物質を使用したほうが良いケースもあります;
- 3ヶ月以下の乳児
- 免疫抑制薬を使用している
- 弁膜症がある
- 血液および関節の慢性疾患がある
などの場合は適応となり、抗生剤を使用したほうが良いでしょう。
投与期間は5日以内で、重篤でない限り、ペニシリン系が推奨されています。
食中毒の予防方法
食中毒は夏場に非常に多く、食中毒の対策法は、以下にあげる4つがメインです:
- 調理で気をつけること
- 食事の摂取方法を気をつける
- 保存方法を注意する
- 手洗いをしっかり
1.調理で気をつけること
調理での注意点は、
- 食材は室温で放置しない
- 十分に加熱する
- 調理器具にも気をつける
の3点です。
食材を室温で放置すると細菌が急速に増殖します。
特に、夏場は気温が30℃以上になり、細菌は増殖しやすい環境にあるので、マメに冷蔵庫に入れるようにしましょう。
食材は十分に加熱しましょう。
加熱によって、細菌を死滅させることができます。
食材の中心温度が75℃以上で、最低1分間は加熱しましょう。
調理器具も注意しましょう。
まな板、包丁、箸、皿などを洗わずに繰り返し使うのは、極力さけましょう。
例えば生肉を捌いた包丁で野菜を切ると、生肉についていた細菌が、野菜へと二次感染します。
ですので、特に生肉や魚介類を使用した調理器具は速やかに洗い、熱湯消毒を適切にしましょう。
2.生ものは避けましょう
特に生ものは避けましょう。
生肉・生レバーなどの内蔵には、大腸菌・サルモネラ・カンピロバクターなどに汚染されている可能性があるので、お子さんは避けたほうが良いでしょう。
3.保存方法を工夫
サルモネラなどの食中毒の原因菌は、常温で急速に増殖します。
逆に、これらの細菌は、低温だと増殖速度が急激に落ちます。
このため、10℃以下の冷蔵庫で、しっかりと保存しておくとよいでしょう。
4.手洗いをしっかりしましょう
調理する人も、食事摂取する人も、しっかりと手洗いをしましょう。
外出先では、どこで菌をもらうか分りません。
手洗いは中途半端に行わず、石鹸やハンドソープを使い、1分以上かけて念入りに行いましょう。