- 「おたふくかぜ」って顎の下が腫れるだけですか?
- そんなに重症にならないですよね?
- ワクチンって必要ありますか?
- 移しあった方がよいですか?
など、様々な質問を外来でうけます。
今回は、おたふくかぜと反復性耳下腺炎について、簡単に解説していきましょう。
おたふくかぜのポイント
まずは、おたふくかぜのポイントです:
- おたふくかぜはムンプスウイルスへの感染で起こる
- 顎(耳の下)が腫れて、痛みがでます
- おたふくかぜはワクチン接種で予防可能です
- 合併症は、精巣炎・髄膜炎・膵炎があります
おたふくかぜの特徴
“おたふくかぜ” は、医学用語では”流行性耳下腺炎” といいます。
感染症で周囲に広がるため『流行性』、耳の下にある耳下腺が腫れるため『耳下腺炎』と名前が付いています。
ちょうど顎の下あたりにある「耳下腺」が腫れるのがわかると思います。
おたふくかぜの原因ウイルスの特徴
おたふく風邪の原因は、『ムンプスウイルス』への感染です。
ちょっとマニアックですが、ムンプスウイルスは 1本鎖RNAウイルスで、周りはタンパク質で覆われて、下の図のような形をしています。
おたふくかぜにかかりやすい年齢
おたふくかぜに感染する年齢は4歳以下が非常に多いです。
現に、おたふくかぜに罹患した子供は、4歳以下が50%弱でした。
もちろん、5歳以上で罹患することもあるので注意が必要です。
おたふくかぜは飛沫・接触感染します
おたふくかぜは飛沫感染・接触感染で子供から子供へ感染していきます。
ムンプスウイルスに感染した子供の唾液、鼻水などを介した感染がほとんどです。
感染力の強いウイルスのため、注意が必要といえます。
おたふくかぜの症状
次に、おたふくかぜの症状について説明していきましょう。
潜伏期間は2週間〜3週間
おたふくかぜの原因であるムンプスウイルスに感染しても、すぐに症状が出るわけではありません。
ムンプスウイルスに感染してから、おたふくかぜの症状が出るまでの期間(潜伏期間)は、2週間〜3週間(平均18日)です。
潜伏期間にウイルスはどんどん増殖して、全身に広がり、 最後に症状が出てくるのです。
耳下腺の腫脹について
おたふくかぜは、基本的に軽症で済むことが多いです(特にワクチン接種をしている方)。
耳の下から顎が腫れて、触ると痛がることが多いでしょう。
これは、顎耳下腺・顎下腺・舌下腺が腫れているからです。
耳下腺は、皮膚から少し深い位置にあるので、腫れている場所とそうでない場所の境界は、区別が付きにくいのも特徴です。
耳下腺の腫れと同時に、発熱することもあります。
この耳下腺の腫脹は、1週間〜2週間くらいで軽快することがほとんどです。
おたふくかぜの合併症
おたふく風邪は軽症なことが多いのですが、合併症を起こしてしまうこともあります。
合併症の例をあげると:
- 髄膜炎/脳炎 (0.1%〜1%)
- 膵炎
- 精巣炎・卵巣炎 (0.01〜0.1%)
- 難聴 (0.01〜0.1%)
です。
髄膜炎の頻度が多いのが特徴的です。
おたふくかぜに罹って、頭痛・吐き気・嘔吐を繰り返しているようなら、髄膜炎を疑います。
膵炎にかかると、腹痛・嘔吐がかなり強くでて、食事・水分が摂取できなくなります。
精巣炎の場合、精巣が大きく腫れて痛がります。
おたふくかぜは、ワクチン接種をしていない場合に合併症を起こしやすくなります。
また、年齢が上がるほど、合併症を起こりやすくなる特徴があります。
不顕性感染って何ですか?
不顕性感染とは、ウイルスに感染しても症状がでないことをいいます。
おたふくかぜの原因ウイルスであるムンプスウイルスの場合、不顕性感染は30%-35%程度で起こっているようです。
おたふくかぜの診断について
おたふくかぜの診断は、基本は臨床診断ですが、血液検査などを使用することもできます。
臨床診断について
通常は、おたふくかぜの流行、ワクチンの接種歴、顎の身体診察をしてを診断します。
時に非典型的な例もあるので、診断に自信がない場合や、他の感染症を疑う場合には、血液検査を追加することがあります。
検査について
ムンプスウイルス抗体価
おたふく風邪の原因ウイルスに対して、免疫能があるかどうかをチェックする血液検査です。
抗体にもいくつか種類があり、IgM抗体は急性期の感染症で上がります。
ムンプスウイルスへのIgM抗体が陽性の場合、おたふく風邪と診断します。
一方、IgG抗体は、おたふく風邪に罹患済みであったり、ワクチン接種している場合に上昇しています。
PCR (遺伝子増幅検査)
PCRでは、おたふく風邪の原因ウイルスの遺伝子がいるかどうか、遺伝子増幅検査で確かめます。
この検査は非常に正確ですが、行える施設はかなり限られています。
(基本的にクリニックではできないと思ってください)
おたふくかぜの治療法
おたふく風邪はムンプスウイルス感染が原因、と繰り返し説明してきました。
しかし、ムンプスウイルスに有効な特効薬はありません。
このため、基本的に対症療法で経過をみます。
発熱や痛みがあれば解熱鎮痛薬を使用し、水分・栄養をしっかり摂ってもらい、自宅で安静でほとんどが軽快します。
入院が必要なケース
おたふく風邪にかかって入院するケースは、髄膜炎・膵炎など、重篤な合併症が起こった場合です。
重い合併症を起こした場合、頭痛・嘔吐・腹痛が悪化し、水分摂取が困難になり、入院して点滴をすることが多いです。
おたふくかぜは予防できます
おたふくかぜは、ワクチン接種で予防可能です。
ワクチンの有効性
ワクチンの有効性は既に確立されていて、おたふくかぜの97%〜99%は予防可能といわれています。
おたふくかぜの原因ウイルスである、ムンプスウイルス・ワクチンを接種した場合、ウイルスから体を守る抗体は、90%以上の確率で獲得できます。
つまり、ワクチンを打てば、大半のお子さんはおたふくかぜを予防できるのです。
残念ながら、ワクチンを接種したのに、おたふくかぜにかかってしまうお子さんはいます。
ですが、ワクチン接種をしている場合、重症化することは稀で、ほとんどが軽症で比較的早く症状が軽快します。
ワクチンの副反応について
おたふくかぜのワクチンによる副反応が気になる方もいるでしょう。
軽度なものですと、耳下腺の軽い腫れが1%程度であります。
無菌性髄膜炎の報告は2000〜10000人に1例くらい認めます(0.01〜0.05%)。
ワクチン接種をしたほうが良いか?
おたふくかぜは大半が軽症で済みますが、髄膜炎・脳炎・膵炎・難聴など重い合併症にかかることがあるので、基本的にワクチン接種をオススメしています。
予防接種の開始時期は、1歳以降です。
1回目のワクチンはできるだけ早めに受けるましょう(特に保育園・幼稚園に通う場合)。
ワクチン接種は2回しましょう。
2回目の接種は、小学校入学前(5〜6歳)です。
おたふく風邪になると出席停止です
おたふくかぜは出席停止の対象です。
2011年までは、耳下腺の腫脹がある間はウイルスの排泄が多いと考えられ、
『腫脹が消失するまで出席停止』
と義務づけられていました。
2012年頃から方針が変更され、
『発症後5日以上経過して、全身状態がよければ登校可能』
と変更されています。
反復性耳下腺炎はおたふくかぜと異なりますか?
反復性耳下腺炎は、顎の下にある耳下腺や顎下腺が、数ヶ月〜数年の間隔で、繰り返し腫れてしまう病気です。
普段、おたふくかぜをみている小児科医でも、おたふくかぜと反復性耳下腺炎の区別がつかないことがほとんどです。
反復性耳下腺炎の原因について
おたふく風邪はムンプスウイルスによる感染とはっきり分かっていますが、おたふく風邪の原因は実はよく分かっていません。
原因として考えられているのは;
- 耳下腺管の形成不全(唾液の貯留・細菌感染)
- ウイルス感染(ムンプスウイルス以外)
- 自己免疫による炎症
が考えられています。
反復性耳下腺炎の特徴
反復性耳下腺炎は5〜6歳に好発し、男女は等しいです。
おたふくかぜは発熱することがありますが、反復性耳下腺炎では、発熱するケースは少ないです。
おたふくかぜは両側の顎が腫れることがありますが、反復性耳下腺炎の場合は片方の顎も下が腫れるのがほとんどです。
反復性耳下腺炎のほうが痛みは軽く、2週間以内に自然軽快します。
いつまで繰り返しますか?
反復性耳下腺炎は名前の通り、何回も繰り返す場合もありますが、大半は思春期までには繰り返さなくなります。
「出席停止は必要ですか?」と質問されることもあります。
おたふくかぜの原因であるムンプスウイルスの感染が否定できれば、出席停止する必要もありません:
- おたふくかぜの流行
- おたふくかぜの既往
- ワクチン接種歴
- 身体診察
あたりを考慮して、総合的に『反復性耳下腺炎』を診断します。
反復性耳下腺炎の治療法について
反復性耳下腺炎の治療法は、おたふくかぜの治療と同じです。
発熱や痛みに対して痛み止めを使用したり、腫れがひどければ冷却をします。
自然に軽快することがほとんどですので、特別な治療はいりません。
耳下腺に細菌感染を合併してしまうこともあり、抗菌薬を使用することもあります。
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