はじめに
今回はこちらの研究をピックアップしました。
咳止め(メジコン®︎やアスベリン®︎)と気管支拡張薬(ツロブテロール®︎、ホクナリン®︎、メプチン®︎)は小児の風邪に対する処方薬として鉄板になっており、非常によく処方されています。
どうやら国外(今回の研究はフィンランド)でもかつては同様の処方の組み合わせが行われていたようです。
しかし、この処方の組み合わせで本当に咳が止まるのかは、はっきりしていません。
そこで今回の研究が行われたようです。
1991年に発表された研究結果ですので、やや古いものになります。
今回の研究では、咳止め±気管支拡張薬を使用して、小児の風邪による咳が改善したかどうかを検討しています。
研究の方法
今回の研究はフィンランドで行われ、
- 75人の患者
- 平均3.8歳(1〜10歳)
- 慢性疾患なし
- 風邪による咳で受診した患者
を対象に研究が行われました。研究は以下の3つのグループに分けられています
1(DS) | 咳止め+気管支拡張薬 | 25人 |
2(D) | 咳止め | 24人 |
3(P) | プラセボ(偽薬) | 26人 |
咳止めはデキストロメトルファン(メジコン®︎)が使用されています。
気管支拡張薬はサルブタモールが使用されています。
日本で処方されている類似薬としては、ツロブテロール®︎やホクナリン®︎、メプチン®︎あたりが馴染み深いでしょう。
咳の評価について
上記の3つの治療を3日間行い、咳の評価をしています。咳の評価は、
- 咳の頻度(夜間)
- 咳の重症度(夜間)
- 咳の頻度(昼間)
- 咳の重症度(昼間)
の4つの指標で行われました。
「0=なし、1=軽度、2=中等度、3=重度」と評価をしています。
研究の結果と考察
研究の結果を簡単にまとめるとこちらになります。
DS | D | P | |
治療前 | 1.75 | 1.66 | 1.81 |
1日後 | 1.61 | 1.30 | 1.44 |
2日後 | 1.11 | 0.93 | 1.06 |
3日後 | 0.88 | 0.60 | 0.76 |
3日間の変化 | – 0.73 | -0.70 | -0.68 |
表の数字は、4つの咳の症状の平均を示しています。(*3日間の変化は私が追加)
- DS:咳止め+気管支拡張薬
- D:咳止めのみ
- P:プラセボ(偽薬)
の3つのグループで、同じように点数が減少しています。
つまり、咳止めを飲んでも、さらに気管支拡張薬を追加しても咳を軽快させる効果はありませんでした。
薬の副作用
薬による副作用の報告はどのグループも変わりませんでした。
おそらく薬の副作用というより、かぜによる体調不良を副作用と報告された可能性が示唆されます。
唯一、気管支拡張薬のみ振戦(手足の震え)の副作用をみとめています。
25人中1人のみ認めたので、4%となります。
まとめ
今回の研究では小児の咳に対して咳止めや気管支拡張薬を使用しても、有効性を証明することはできませんでした。
また外来でホクナリンテープ®︎やツロブテロールテープ®︎、メプチン®︎の内服薬など、気管支拡張薬が処方されていることがあります。
テープは貼るだけですので、簡便な薬で、保護者の方々から人気が高いです。
保護者の中には、これらのテープ類が咳止めと勘違いしてしまっている方もいます。
ですが、これらの薬に咳止めの効果はありません。
さらにこれらの薬には今回の研究で認めた手足の震えを起こしてしまうことがあります。
また、不整脈を起こしてしまうこともあるため、基本的にかぜの使用をおすすめできる薬ではありません。
「咳止め」と効くと、その名の通り「咳を止める薬」と考えてしまいますが、実は咳の症状を緩和できないかもしれないという矛盾があります。
「咳止めを飲めば咳が止まる」という考え方を、医療者も保護者の方々も、根本から見直す必要があるのかもしれません。