前回はチペピジン(アスベリン®︎)について、実は市販薬にも同じ成分を含むものがある点を説明してきました。
確かに、市販薬には同成分が含まれているものが多数ありましたが、なぜか第一世代の抗ヒスタミン薬も配合されており、特に乳幼児にはお勧めできない製品ばかりでした。
さて、今回はチペピジン(アスベリン®︎)の咳止めとしての科学的根拠について、少し調べてみようと思います。
PubMedの検索結果
PubMedという医療関係の論文検索ができるサイトがあるのですが、医療関係者は論文を書いたり、調べ物をする際にはこちらを使用することが多いです。
検索に「tipepidine」を入れてみたのですが、わずか30件ほどしかヒットしませんでした。
タイトルを少しみていくと、
- 副作用の症例報告
- ADHDや思春期の抑うつへの有効性
の2つがメインのようでした。
副作用の症例報告について
副作用の症例報告は複数あり、アナフィラキシーや固定薬疹を散見しました。
- アナフィラキシーショックの1例(小児):Asia Pac Allergy
- アナフィラキシーの1例(成人):Respirol Case Rep
- チペピジン中毒の1例(小児):Pediatrics International
- 固定薬疹の1例(小児):J Dermatol
特に3つ目の中毒症例に注目しました。
というのも、この症例は処方されたシロップのボトルの底に、薬が沈殿していたようです。
そして、この濃縮されたチペジピンを内服してしまい中毒症状が生じたようです。
精神科領域での使用について
恥ずかしながら、この検索で初めて知ったのですが、チペピジンはADHDや思春期の抑うつなどでも研究されているようです(私はこの領域は詳しくありません)。
- ADHDへの有効性の検討:Psychiatry Clin Neurosci
- 治療抵抗性のうつ病への有効性の検討:Acta Neuropsychiatr
- 思春期のうつ病への有効性の検討:Neuropsychiatr Dis Treat
Embase®︎での検索結果
PubMedだけでなく、Embase®︎でも検索してみました。
1970年代に
- Effect of the combined use of tipepidine (Asverin) and trimetoquinol (Inolin) for cough in so called ”common cold”:Japanese Archives of Internal Medicine 1974 21:8 (285-289)
- Safety evaluation tests of tipepidine hibenzate (Asverin H). Asian Medical Journal 1974 17:12 (21-35)
で有効性と安全性を検討しているようですが、前者は内科宝函、後者は日本医師会が発行している雑誌のようですね。
まとめ
小児のかぜ薬として処方されるチペピジン(アスベリン®︎)の有効性や安全性の評価を検索しましたが、複数のデータベース(PubMedとEmbase)を使用しても十分な文献にたどり着くことができませんでした。
臨床的に十分な有効性の評価がなされないまま処方されてしまっている現状で、安全性についても質の高い観察研究などもなされていないようです。
(とはいえ、何十年も処方されていて、重大な副作用の報告がほとんどないので、それほど危ない薬とは思いませんが…)
今後、これらの薬の使用状況や、有効性・副作用を大規模で調査する研究が出てくるのを待ちましょう。