- 「咳がはちみつに効くらしい」
- 「子どもの咳が辛そうなら、白湯にハチミツを溶いてあげると良い」
など、ひょっとしたら聞いたことがあるかもしれません。
しかし、その発言の科学的根拠について、しっかりと把握せずに言葉が一人歩きしてしまっているケースもあります。
私自身、もう少し骨太な記事を書きたいという思いが強まり、ここで一歩立ち止まって、過去の研究を見直してみました。
さらに、2018年にコクラン・データベースからはちみつの有効性に関する論文が出版されていました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29633783
今回はこちらを紹介しつつ、小児のかぜによる咳とはちみつについて、まとめていこうと思います。
小児の咳とはちみつに関する研究について
小児の咳とはちみつの研究は定期的に行われているようで、前回は2014年、その前は2012年、2010年のようです。
解析の対象となった研究について
- ランダム化比較研究(RCT)である
- はちみつ使用したグループとプラセボがある
- 12ヶ月〜18歳の小児
が選択基準になっており、6つのRCT(N = 899)の小児を解析対象としています。
それぞれの研究の特徴を列挙すると、以下のようになります。(*N = 参加者、DH = ジフェンヒドラミン、SB = サルブタモール(β刺激薬)、DS = デーツ(ナツメヤシ)シロップ、DM = デキストロメトルファン、PL = 治療なし、sp = スプーン)
2016年に行われたPeixotoらの研究は、ハチミツにブロメライン(Bromelin®︎)を足した研究で、30分後の治療効果を見ているため、はちみつの有効性を純粋には検討できていませんので、私の方で対象外にしています。
はちみつの種類について
やはり気になるのははちみつの種類でしょう。
メタ解析の結果と考察
これまで紹介してきた研究と同様で、咳については以下の点が評価されています:
- 咳の頻度
- 咳の重症度
- 咳による苦痛
- 子どもの睡眠の質
- 大人の睡眠の質
結果のまとめ:投与後1日のみ
(*DH = ジフェンヒドラミン、SB = サルブタモール(β刺激薬)、DM = デキストロメトルファン、PL = 治療なし)
それぞれの咳の項目の傾向ですが、デキストロメトルファン(メジコン®︎)と同程度であるが、抗ヒスタミン薬や無治療より成績は良かったと言えます。
このメタ解析の問題点
こうしてみると、いくつか問題点が浮き彫りになりました。
色々な点がありますが、3点だけ説明しましょう。
- 介入にばらつきがある
- メタ解析をした研究数がそもそも少ない
- 外的妥当性の問題
まずは介入に関してです。
使われたはちみつの種類も量も、研究毎にバラバラです。
使われたはちみつの種類も量も異なり、「じゃあ結局、どのはちみつを、どれだけ投与すれば良いのか?」という単純な疑問にすら答えることができません。
アメリカ、イラン、イスラエルで使用されているハチミツの成分が全て同じとは考えづらいですし、投与量もとりあえず 2.5 ml以上で良さそうですが、薬のように体重あたり 〇〇 mg/日のように明確に定義することができません。
また、メタ解析の対象になった研究数が非常に少ないです。
これにもいくつか理由があり、研究が用いたアウトカムの指標がやや異なるためです。
個々の比較には最大で2つの研究しか利用できておらず、メタ解析に必要な研究数を満たしていません(最低でも5つは必要と考える方が多いです)。
最後に、外的妥当性の問題です。
例えばこの研究を見て、「日本の小児ではどうか?」と感想を持つでしょう。
日本で使っているはちみつと、この研究のはちみつが本当に同じ効果を発揮するかは分からないです。
理由として、1つははちみつの種類や精製過程、成分の違い。もう1つは親の主観的評価の違いが考えられます。
また、投与年齢も1-2歳〜12-18歳とかなりばらつきがあり、これらを全てオーバーラップしているのは2〜5歳のみです。
1歳未満はハチミツはNGですので投与しないとして、1歳のお子さんに投与して効くかどうかも、2〜5歳と比較するとエビデンスとしてはやや弱くなると思います。
まとめ
やや議論が複雑になってしまいましたが、今回の研究では、すでに複数の研究ではちみつの咳止めとしての有効性があることが分かりました。
現状では、咳止め(デキストロメトルファン:メジコン®︎)と同じくらい、抗ヒスタミン薬や無治療よりは良さそうという印象ではあります。
しかしこの結果が日本の小児に本当に一般化できるのか、どの年齢で有効性があるのか、長期間でどうか、といった点ははっきりしません。
日本やアジア圏、あるいは他の先進国での同様の結果の蓄積が待たれます。