乳幼児へのカルボシステイン(ムコダイン®︎)の副作用が気になっている方を対象に書きました。
今回はこちらの文献を参考に記載しています。
英文になってしまいますが、こちらの文献は無料で読めるため、ご興味があれば読んでみると良いでしょう。
欧州において、乳幼児へのカルボシステイン(ムコダイン®︎)投与の副作用の報告をまとめた論文になります。
背景
カルボシステイン(ムコダイン®︎)は痰や分泌物の粘稠性を下げ、排出しやすくなるため去痰薬(痰きり)として小児のかぜや気管支炎などで処方されています。
どうやらカルボシステイン(ムコダイン®︎)の処方は日本に限ったことではなく、欧州(オランダ、イタリア、スペイン、フランス)や南米、アフリカの国々でもよく処方される薬のようです。
2歳未満の乳幼児へのかぜ薬について
近年のトレンドとして、2歳未満の乳幼児のかぜに対して、咳止めや去痰薬などかぜ薬を投与しない方向に向かっています。
例えば、2008年にアメリカのFDA(食品医薬品局)が、重篤な副作用の危険性を理由に2歳未満の小児には市販のかぜ薬を使用しないように勧告をだしています。
欧州でも似たような流れにあり、2010年にフランスとイタリアが2歳未満の小児に、アセチルシステインやカルボシステイン(ムコダイン®︎)のライセンスを取り下げています。
理由として、気道感染の際に使用と、気管支漏(bronchorrhea; 大量の喀痰排出)や急性呼吸不全の関連性が複数報告(n = 6)されたためです。
しかし、これらはあくまで奨励報告であり、国レベルでどの程度の重篤な副作用が起きているのか確認する必要があります。
そこで、今回の研究が行われました。
研究の方法
今回の研究はフランスの副作用報告システムを使用して行われました。
研究の対象となったのは、
- 1989年〜2008年
- 6歳未満の小児
- アセチルシステインまたはカルボシステインを内服
- 副作用の可能性がある症例
(内服開始後の気管支炎・肺炎の悪化、大量の喀痰、呼吸困難など) - これらの症状が出る2日以上前から対象薬を内服している
となります。
研究の結果と考察
最終的に対象となった報告は59例です(1989年〜2008年)。
7例は製薬会社経由で、残りの52例は医療機関経由で報告されています。
59例中46例は2002〜2008年に報告されています。
薬の詳細について
薬の種類と期間について報告をまとめると以下のようになります。
カルボシステイン単剤 | 30例(51%) |
アセチルシステイン単剤 | 28例(48%) |
両方内服 | 1例(2%) |
平均5.9日間の内服をしていたようです。
年齢の分布について
年齢分布と報告数を表にまとめてみました。
年齢 | 報告数 |
1ヶ月未満 | 6例(10%) |
1〜6ヶ月 | 28例(48%) |
6〜12ヶ月 | 12例(20%) |
12〜24ヶ月 | 11例(19%) |
24ヶ月以上 | 1例(2%) |
副作用の報告内容について
副作用の可能性があるとして報告された詳細の内訳を記載します。
気管支炎の呼吸状態悪化 | 35例(59%) |
気管支漏の悪化 | 19例(32%) |
呼吸困難 | 18例(31%) |
咳の悪化・遷延 | 11例(19%) |
喀痰の嘔吐 | 8例(14%) |
肺炎 | 3例(5%) |
急性気管支炎 | 2例(3%) |
気管支攣縮 | 1例(2%) |
となっています。
疫学者の視点から
薬の安全性を評価するために、こういった報告は非常に貴重なものと考えています。
国内外問わず、小児の薬は十分な科学的根拠が検討されずに市場に出回っている薬も多数あります。
また、臨床研究では比較的稀な副作用を捉えるのは難しいため、このように副作用の報告システムを作り、そのデータを集積することは非常に重要です。
一方で、このような報告システムでは、因果関係の証明や、実際の副作用のリスク(頻度)を捉えるのは難しいので、その点は差し引いて解釈する必要があります。
例えば、今回は59例の重大な副作用の報告がされています。
おそらく報告は臨床医の判断でされたものと推測していますが、薬のせいでこれらの症状が出たのか、単なる感染症の進行なのかは区別は難しいと思いました。
もちろん、普段、日常的に診療している臨床医が報告したものなので、それなりの理由があって報告したのだと思いますが、それでも「本当に薬のせいなのか?」という疑問に答えるのは難しいでしょう。
次に、2歳未満の報告例が多いですが、これも年齢毎の受診者数にもよるでしょう。
フランスにおける医療機関の実情は私はよくわかりませんが、日本やアメリカの実情を考慮すると、かぜによる医療機関への受診は圧倒的に2歳以下が多いです。
受診者数がおおければ処方数も多くなりますし、気道感染が悪化しやすいのもこの年齢です。
今回の報告だけでは、何人に薬を投与して、どのくらいが副作用を起こすのか(例えば1万人の処方のうち〇〇人が副作用を報告した)もわからないのです。
2歳未満へのカルボシステインやアセチルシステインをどうすべきか
とはいえ副作用の報告は重く受け止めるべきで、2歳未満への投与をどうすべきか考える必要があります。
前回はカルボシステイン(ムコダイン®︎)の小児の気道感染症(かぜ、気管支炎など)に対する有効性について簡単に解説をしてきました。
行われた研究数がそもそも少なくシンプルに明言できるわけではありませんが、かぜにおいては痰切りの効果がわずかにあるのかもしれません。
ただし、行われた研究は2歳以上の小児の数が相対的に多いです。
2歳未満への有効性については、正直なところ分からないとしか言いようがないです。
とはいえ、実臨床(外来診療)では処方する、しないを判断せざるを得ません。
ここは医師のさじ加減にもよると思いますが、例えば副作用の報告が多かった1〜2歳未満は避ける、などが考えられます。
まとめ
やや曖昧な考察が長くなってしまいましたが、今回の研究では小児のかぜ薬で処方されるカルボシステインやアセチルシステインの副作用の報告は2歳未満に多かったです。
フランス・イタリアではすでに2歳未満での使用に制限がかかっているようです。
今後、他国や日本でどのように方針が変化するのか、注意していこうと思います。
小児のかぜにおけるカルボシステインは…
- (2歳以上には)痰切りとしての効果があるかもしれないが…
- 2歳未満で副作用の報告が多く(因果関係は不明確)
- 使用を制限している国も複数ある