- 「咳止めのテープを処方してください」
と小児科外来でお願いされることが時々あります。
気管支拡張薬(ホクナリンテープ®︎やツロブテロール®︎)のことを言っていることがほとんどですが、実はこの薬は気管支を拡張させる作用はあるのですが、直接的に咳を止める効果はありません。
外来で「咳止めの効果はないのですよ」と説明されることがあるかもしれませんが、実際にどのような研究がされて有効性が証明できなかったのか、ご存知の方はむしろ少ないと思います。
そこで、今回はこちらの研究をピックアップしました。
先にこちらの論文の要点をお伝えします。
- 気管支拡張薬は咳止め効果は認めなかった
- 15%ほどで副作用(手足の震え)が出現した
研究の方法
今回の研究は、アメリカのJohns Hopkins Hospitalの小児救急外来で1993-94年に行われました。
- 1−10歳
- 咳が1〜14日ある
- 多呼吸はない
- 喘鳴はない(胸の音がゼーゼーしていない)
- 慢性疾患がない(喘息含む)
を対象に行われました。治療をランダム化し、
- Albuterol(気管支拡張薬)
- プラセボ(偽薬)
を処方され、7日後に再評価をしています。
この研究の約束事として、
- 主治医は咳止めを処方しない(コデインなど)
- 患者も市販薬を使用しない
としています。
アウトカムの評価
研究のアウトカムの評価は9つの項目で行われ;
- 咳の程度
- 嘔吐
- 睡眠
- 遊ぶ元気
- 経口摂取
- 保護者の心配
- 保護者の日常生活への支障
- 保護者の睡眠への影響
- 全体的な軽快
が該当します。これらの合計点数(9〜42点)をアウトカムの指標として使用しています。
研究結果と考察
研究参加者は以下の通りです。
治療 | 偽薬 | |
最初 | 30人 | 29人 |
2日後 | 24人 | 23人 |
7日後 | 23人 | 23人 |
*治療 = albuterol; 偽薬 = プラセボ
アウトカムについて
治療あり | プラセボ |
25.7 (6.1) |
24 (7.7) |
気管支拡張薬による治療を受けても受けなくても、咳のスコアはほぼ同じでした(P = 0.35)。
こちらの図は縦軸で咳が持続している割合、横軸で治療開始後の日数を見ています。
咳が改善した人が増えれば0に近づくので、縦軸方向で0に近い方が成績が良いと判断できます。
この生存曲線を見ても、治療しているグループとコントロールでは、ほぼ同じ線を描いており、統計学的にも差を認めませんでした(P = 0.83)。
副作用について
副作用は、
- 興奮しやすい
- 振戦(手足の震え)
をみています。
治療 | あり | なし |
興奮 | 13/30 | 8/29 |
振戦 | 5/30 | 0/29 |
気管支拡張薬を使用したグループの方が興奮しやすい傾向にありましたが、統計学的な有意差はありませんでした(P = 0.32)。
振戦は治療を受けたグループの16%ほどで認めています(P = 0.05)。
まとめ
今回の研究は1歳以上の小児を対象に気管支拡張薬を使用しても咳の症状を改善したり、咳の期間を短くする効果は認めませんでした。
また、手足の震えが15%ほどの患者で認め、副作用も懸念されます。
気管支拡張薬は…
- 小児のかぜによる咳を改善しなかった
- 咳の期間を短縮しなかった
- 手足の震え(振戦)が起こりやすい