前回はトラネキサム酸(トランサミン®︎)の一般的な内容について解説してきました。
英文の医学雑誌では小児のかぜにトラネキサム酸(トランサミン®︎)の有効性を検討した論文はなさそうで、(おそらく)イタリア語と日本語でありそうという結果でした。
ありがたいことに、日本語の論文を送っていただいたため、そちらの概要を報告させていただきます。
Toba T. Clinical Evaluation of K-CW, Common Cold Drug Containing Tranexamic Acid, in Pediatric Patients. 薬理と治療. 1990;18:569–578.
研究の方法
今回の研究はケースシリーズ(症例集積)で、1990年に千葉のとある病院にかぜで受診をした7〜14歳の小児を対象に行われました。
- 抗菌薬の投与が不要
- 重篤な合併症なし
- 薬物アレルギーなし
のない20名の小児が対象となっています。
使用した薬剤
こちらの研究で使用されたのはK-CWというカプセルで、いわゆる総合感冒薬です。成分は;
- アセトアミノフェン(解熱剤)
- トラネキサム酸
- クロルフェニラミン(抗ヒスタミン薬)
- チペジピン(咳止め)
- メチルエフェドリン(充血除去薬)
- リゾチーム
- カフェイン
が含まれています。
アウトカムについて
薬の投与開始前後で、
- 重症度:1〜3点
- 各症状:0〜3点
- 発熱:0〜3点
とし、それぞれの点数の変化をみています。
改善 | |
著明 | 3→0、2→0 |
中等度 | 3→1、1→0 |
軽度 | 3→2、2→1 |
不変 | 同じスコア |
悪化 | スコア悪化 |
と判断しています。
研究の結果と考察
こちらで症状の全般的な改善度をみています(表は論文より拝借)
さらに細かい症状をこちらで検討しています。
再受診し評価したのは4−5日後だったようですが、全身状態や鼻・喉の所見をみて改善していたようです。
これらから、総合してトラネキサム酸(トランサミン®︎)を含むこのカプセルに有用性がありそうと論じられていました。
考察:症例集積では有効性を論じることはできない
この結果を見て違和感を感じた人も多いと思います。
なぜなら、この研究にはコントロール(治療を受けていない人)がいないからです。
「有効性」を論じる場合、何と比較してが重要で、
- トラネキサム酸(トランサミン®︎)を含む薬を使用したグループ
- トラネキサム酸(トランサミン®︎)を含む薬を使用しないグループ
の2つで比較検討する必要があります。
コントロールがいない場合、
- かぜの自然経過で治ったのか
- 薬が有効であったのか
の両者を区別することができなくなります。
なぜなら、4−5日あればかぜの症状は一般的に随分と軽快するためです。
まとめ
こちらの症例集積研究では、トラネキサム酸(トランサミン®︎)を含む薬剤が小児のかぜに有効であると論じられていましたが、コントロール群がなく有効性を示唆することは難しいと思いました。
薬の有効性なのか、自然軽快なのかを区別できる研究デザインが必要と言えます。
有効性を評価するには適切なコントロール(対照群)が必要