日本語の論文でも良いので、トラネキサム酸(トランサミン®︎)の有効性を検証した論文を見たいと探したところ、以下の論文がヒットしたため、ピックアップしました。
Kanzaki, et al. Clinical Evaluation of K-AT on Tonsillitis and Pharyngo-Laryngitis-Double Blind Comparative Study with Acetaminophen-薬と治療.1990;18:521-535
前回の記事では、有効性の検証を試みた論文でしたが、研究デザイン上はその解釈が困難でした。
今回は国内で行われたRCTを見つけたためこちらで紹介します。
研究の方法
今回の研究は、
- 15歳以上
- 扁桃炎・咽頭炎・喉頭炎
- 抗菌薬・化学療法は不要
- 合併症なし
- 妊婦・授乳中でない
を対象に研究が行われました。治療は、
- アセトアミノフェン
- アセトアミノフェン + トラネキサム酸
のいずれかをランダムに割り付けて、有効性を検証しています。
アウトカムの評価
アウトカムは、治療開始3日後、治験終了日(4−5日後)に、
- 喉の痛み、違和感
- 嗄声
- 悪寒
- 扁桃・咽頭の発赤・腫脹
- 発熱
などを中心に見ています。
症状の重症度は0点が症状なし、3点が高度となっています。
- 改善度という指標も取り入れて、
改善 | |
著明 | 3→0、2→0 |
中等度 | 3→1、1→0 |
軽度 | 3→2、2→1 |
不変 | 同じスコア |
悪化 | スコア悪化 |
と判断しています。
研究結果と考察
合計129人が参加し、
- アセトアミノフェン(64例)
- アセトアミノフェン + トラネキサム酸(65例)
の内訳となりました。追跡不能となった症例が多かったようです。
A | A+T | |
最初 | 64 | 65 |
3日後 評価欠損 |
22 | 28 |
完全症例 | 20 | 18 |
3日後と5日後の有効性について
3日後と5日後の評価が行われ、著者らは「3日後には有効性なし、5日後には有効性あり」と判断しています。
まず、P値のカットオフが0.10になっており、この理由が十分説明されていません。
また、解析方法も、中等度・軽度とカットオフを決めたり、順位和検定をするのでなく、2 x 5 tableのまま解析した方が良いと私は考えました。
例えば同様の結果をFisher’s exact testで2グループ全体を解析すると、上記の通り有意差はありません。
症状別の改善度について
様々な項目を検定していますが、こちらの表は文献の一部方抜粋しました。
例えば嚥下痛の改善度が有意差ありとしていますが、こちらも2群を同時に検定する方が良いと思いました。
やはりこちらの結果も統計学的な有意差はありませんでした。
多重検定の補正について
こちらの論文ですが、100以上の仮説検定が行われています。
全て同じP値のカットオフ(α=0.05)で行なった場合、偽陽性を拾ってしまう場合があります(真に差はないが、有意差ありとしてしまうこと)。
このように複数回の仮説検定をする場合、P値のカットオフを変更する必要があります。
例えば、簡便な方法としてBonferroni法があり、これは単純でP値のカットオフを100で割り、α(有意水準) = 0.0005まで下げてしまう方法です。
まとめ
今回は成人においてトラネキサム酸の有効性が検証されています。
著者らは3日の内服では有効性なし、5日後には有効性ありと判断しています。
しかし、追跡不能が多い、統計学的な検定方法にやや疑問が残るため、必ずしも有効性があるとは限らない結果でした。
論文の結果を解釈するときは、「統計学的な有意差」や「P値」を見るだけでなく、どのようなデザインが組まれ、どのように解析され、どのような欠点のある研究かを見極める必要があります。
臨床研究を解釈するとき、
- 研究デザイン
- 統計手法の妥当性
- バイアス(選択バイアス・交絡など)
から総合的に判断することが必要です。 Dr.KID