今回は1970年代に国内で出版されているチペピジン(アスベリン®︎)の使用効果を検討した論文の紹介をしようと思います。
Suzuki M, et al. Effect of the combined use of tipepidine (Asverin) and trimetoquinol (Inolin) for cough in so called ”common cold”:Japanese Archives of Internal Medicine 1974 21:8 (285-289)
チペピジン(アスベリン®︎)は科学的根拠のない薬としてよく紹介されていますが、こちらの研究ではどのように評価されたのかを見ていきましょう。
研究の方法
今回の研究は、
- 昭和48-49年
- とある市中病院
に咳を主訴に受診した患者34名(成人)を対象にしています。
治療方法はアスベリン®︎+イノリン®︎を投与し、その後に咳の症状の経過を追っています。
イノリン®︎について
イノリン®︎はあまり聞きなれない薬品名ですので少し調べてみました。
一般名はトリメトキノールというようで、β受容体刺激薬の一種です。
小児でもホクナリン®︎やツロブテロール®︎が処方されることがありますが、類似の薬品といったところでしょうか。
気管支平滑筋にあるβ2受容体を刺激することで、咳の軽減を期待した薬です。
話の腰を折ってしまいますが、β受容体刺激薬の咳止めの有効性は、その後に複数の研究で否定されています。
研究結果と考察
咳の頻度を薬投与前後で見ています。結果は下の図のようでした(論文より拝借)
投与前後での咳の頻度を縦軸に、時間経過は横軸になっています。
論文中の表現がやや曖昧でしたが、投与後7日くらいを目処に再評価していたようです。
どうやらこれだけを見ると、咳が軽快しているように見えてしまいます。
咳の頻度 | 投与前 | 投与後 |
3+ | 9 | 0 |
2+ | 13 | 4 |
1+ | 11 | 5 |
+/- | 1 | 16 |
– | 0 | 9 |
前後比較試験でもコントロールが必要
今回の研究は前後比較試験でして、基本的に全員が薬を飲むのでコントロールがいません。つまり、
- 内服前の咳の頻度(初日)
- 内服後の咳の頻度(1週間後)
を比較することになります。
咳が全く変わらないという前提があれば、この研究方法でも悪くはないのですが、かぜによる咳は自然とよくなります。
このため、前後比較試験では、
- 自然によくなったのか?
- 薬のおかげで良くなったのか?
の区別ができないのです。
この場合はコントロールを置きながら研究をする必要があります。
具体的には以下のようになります。
薬 | あり | なし |
咳 (治療前) |
a | b |
咳 (治療後) |
c | d |
差 | a – c | b – d |
治療あり vs. なしの2グループに分けて、前後でどれだけ改善したかを見ます(a – c vs. b – d)。
その改善分を2つのグループで比較する必要があるわけです。
まとめ
今回の研究ではアスベリン®︎+イノリン®︎を投与し、その後に咳が改善しているかを見ています。
しかし、コントロール群がなく、薬による軽快か、自然経過なのか区別するのが非常に難しいです。
少なくともコントロール群を置いて再検証する必要があると思います。