- 「解熱剤を使用すると、症状がかえって長くなる」
と聞いたことがあるかもしれません。
あるいは、似たようなことを説明する医師もおり、処方をためらう方も時にいます。(やや極端な方針とは思いますが…)
風邪が対象の研究とは限りませんが、解熱剤を使用するとかえって症状が長引いたり、ウイルスケースがあるのは事実です。
前回はマラリアについて説明してきました。
今回は水痘(水ぼうそう)と解熱剤を調査した研究を見つけましたので、解説していこうと思います。
Doran TF, et al. Acetaminophen: more harm than good for chickenpox? J Pediatr. 1989;114:1045-8.
研究の方法
今回の研究は、1984-1985年にアメリカで行われたランダム化比較試験です。
- 1〜12歳
- 神経疾患がない
- 長期的な薬の内服がない
- 免疫低下がない
- 48時間以内に薬を内服していない
を満たす水痘患者を対象に行われています。その後に、
- アセトアミノフェン
- プラセボ
のいずれかを割り当てられました。1日4回、ルーチンで投与されています。
水痘の病変がある部位にはカラミンローションが使用されています。
アウトカムの評価について
- かゆみ
- 食欲
- 活気
- 全体的な体調
を1〜4点で計測し、
- 腹痛、嘔吐、不機嫌、不眠、頭痛
は、あり/なしで評価しています。さらに、
- 発疹の変化
も観察しています。
研究の結果と考察
最終的に68人の患者が研究に参加しました。
アセトアミノフェンを投与された患者は37人、プラセボは31人でした。
こちらがグループ別にみた患者背景になります。(論文より拝借)
統計学的な有意差は無いものの、アセトアミノフェンのグループの方が、発症から研究に参加するまでの時間がやや早め(16.1 vs. 19.7)であった点が少し気がかりです。
発熱に関して
A | P | |
発熱あり | 21 | 17 |
発熱なし | 16 | 14 |
合計 | 37 | 31 |
*A = アセトアミノフェン、P = プラセボ
解熱薬を使用したからといって、水痘による発熱を予防できるわけではなさそうです。
発熱をアウトカム、解熱薬の投与を治療の変数として計算すると、以下のようになります。
発熱するリスクは薬の投与とは関係なさそうな結果でした。
一方で、活気は治療2日目には、アセトアミノフェンを使用したグループの方が良さそうでした。
皮膚の症状について
皮膚の症状(かゆみ)のトレンドは以下の図のようになります(論文より拝借)
両方のグループでトレンドに統計学的に有意な差はありませんでした。
ややアセトアミノフェングループの方が遷延しているように見えてしまう図ですが、初日のスコアが低く、さらにTable 1で説明したように、発疹が出現してから研究に参加するまでの時間が短かった点が影響しているのでしょう。
こちらのTableは、
- 水痘の新規の発疹が最後に出た日
- 痂皮化するまでの時間
- 皮膚が回復するまでの時間
の3つをみています。
赤線でチェックしていますが、痂皮化するまでの時間は、プラセボ群の方が統計学的に有意に短いと著者らは主張しています。
確かに数字上はそう見えるのですが、なぜかプラセボ群の患者が24人に減っています(-7人)。31人中の7人ですから、それなりに大きな影響を与えうる数です。
著者らはこれらについては全く言及しておらず、やや不誠実な気がしました。
まとめ
今回の研究では、水痘患者にアセトアミノフェンを定期的(1日4回)に使用をしても、
- 発熱を予防しない
- (発熱時に熱を下げられるので)活気は若干良くなるかも
という結果でした。また、著者らは、
- かゆみが遷延するかも
- 痂皮化が遅れるかも
と主張していますが、評価の仕方に問題があり、この点は差し引いた方が良いと考えています。