小児のウイルス感染症(風邪やインフルエンザ、RSウイルスなど)に解熱薬を使用するメリットとデメリットはどんなものがあるのだろうか?と疑問に思うことは、医療者・保護者それぞれの立場から考えさせられることがあるでしょう。また、この疑問に科学的根拠を持って答えたいと私は考えています。
小児のかぜに解熱薬を使用するメリットとして、
- 熱が下がり、不快感が減り、活気が上がるかもしれない
デメリットとして、
- 発熱によって得られるであろう免疫能の賦活化(活性化)を妨げてしまうかもしれない
といった点が指摘されています。
前者については、これまでにご紹介してきた研究からも、どうやら熱が下がる時間があると、ご家族や本人の苦痛は軽減するという印象でした。
一方で、発熱によって免疫のスイッチが入ると考えると、無理に熱を下げてしまう弊害もあるように思えてしまいます。
実際、小児のかぜではありませんが、マラリアや水痘を対象に行った研究では、解熱薬を使用すると病原体を体が排除にするのに時間を要したり、皮膚の症状が長引くかもしれないと報告している研究もあります。(但し、水痘の研究はやや妥当性に疑問があります)
水痘やマラリアと小児のかぜは同じかぜではあるものの、全く別の疾患ですから、単純に一般化して考えるのはNGでしょう。
今回、ご紹介する研究はこちらです。
こちらの研究では、解熱薬を小児のかぜに使用すると
- どのくらい体が楽になるのか?
- かぜの症状がかえって長引くのか?
といった点に触れています。
研究の方法
今回の研究は、カナダのモントリオールで行われ、
- 生後6ヶ月から6歳
- 38度以上
- 発熱期間は4日以内
- 重症感染症・細菌感染症はない
を対象に研究が行われました。治療は、
- アセトアミノフェン
- プラセボ
のいずれかをランダムに割り当て、4時間毎に必要に応じて薬を使うように指導しています。
アウトカムについて
日記に
- 体温
- 活気・意識・機嫌・食欲・水分摂取のLikert scale
を記録してもらい、最終的に治療グループ別に
- 発熱期間
- かぜ症状の期間
- 全身状態の改善
をアウトカムとしています。
研究結果と考察
最終的に225人の患者が研究に参加し、123人がアセトアミノフェンを、102人がプラセボで治療するグループになりました。
それぞれのグループの患者背景は以下の通りとなります:
アセトアミノフェン(Paracetamol)もプラセボグループも非常に似通った集団でした。
発熱とかぜ症状について
発熱とかぜ症状の推移はこちらのFigureになります(論文より拝借)。
左が解熱薬、右がプラセボグループですが、どちらのグループも発熱期間・かぜ症状の期間は変わりませんでした。
子供の体調について
こちらが小児の体調をLikert Scaleで点数化したものです。アセトアミノフェンを飲んだグループの方が、
- 活気が改善する
- 注意力(覚醒度)が高まる
傾向にありました。
考察と感想
- 「解熱薬を使用すると、かぜの症状が長引く…」
と考えている医師がいることは確かです。
一見すると理にかなっていそうな意見ですが、今回の研究では解熱薬はかぜの症状を延長させるような効果は認められませでした。
もちろん1つの研究だけで確実に言い切ることはできませんが、解熱薬はかぜの症状の期間に影響しなさそうなので、必要以上に使用をためらう必要もないと思います。
一方で、今回の研究では解熱薬は発熱期間もかぜ症状の短縮効果もなく、「何のために使っているの?」と疑問に思われた方もいるかもしれません。
解熱薬は一時的な解熱効果はありますが、解熱したり、体の痛みが取れることで、体調が楽になります。
もちろん解熱薬の効果は2−4時間をピークに徐々に薄れてしまうので、一時的なものですが、それでも熱のあるお子さんが体が楽になる時間は、お子さんと保護者双方にとってメリットは大きいと考えています。
今回の研究でも、薬を使用後の2時間で活気や意識が改善しており、解熱薬は「苦痛をとる」という意味では多少なりともメリットがあるのではと思いました。
まとめ
今回の研究は生後6ヶ月から6歳を対象に、解熱薬の有効性とデメリットを検証しましたが、解熱薬は
- 発熱期間を短縮も延長もさせない
- かぜ症状が長引くこともない
- 使用後2時間後の活気は改善する
といった傾向にありました。