- 「熱性けいれんを起こしたら、予防的にダイアップ®︎を」
- 「解熱薬は熱性けいれんを起こしやすくするから、解熱薬は使わないように」
などと外来で指導されているケースがあります。
現在の熱性けいれんのガイドラインでは、全例でダイアップ®︎(ジアゼパム)は必要ないですし、そもそも解熱薬が熱性けいれんの再発を惹起すると報告された研究を見たことがありません。
とはいえ、これらの「伝統的な」指導の根拠が薄いというには、過去に行われた科学的根拠をもとに指摘する必要があります。
文献を探したところ、割と日本の実情に近い薬の組み合わせ(アセトアミノフェンとジアゼパム)で行われた研究を見つけたので、こちらで報告させていただきます。
今回の研究は、アセトアミノフェン(カロナール®︎など)とジアゼパム(ダイアップ®︎など)が熱性けいれんの再発を予防するか検討しています。
研究の方法
初回の熱性けいれんの小児を対象にランダム化比較試験(RCT)が,1986年から1990年のフィンランドで行われました。
- 無熱性けいれんの既往がない
- 抗けいれん薬を使用していない
- 慢性疾患がない
を対象に行っています。ランダムに割り当てられた治療は、
- 初回はジアゼパム坐薬を使用し、その後2日間は熱が38.5℃以上ならジアゼパムの内服を1日3回行う(0.6 mg/kg/day)
- 熱が40℃以上なら解熱薬(アセトアミノフェン)を使用する
- 上記両方とも使用する
- いかなる薬も使用しない
で、4つのグループに分け2年間追跡しています。
アウトカムについて
アウトカムは熱性けいれんの再発です。
再発した回数ではなく、再発したか否かのみ考慮しています。
著者らは治療によって5%以上の再発率が減少した場合に臨床的な有意差があると判断しています。
研究結果と考察
合計で180人の患者が参加し、2年間の追跡が完了したのは157人で、最終的に153名が解析の対象となりました。
この集団の特徴として、
- 合計で641回の発熱
- けいれんの再発率は21.1%
- 再発のうち2/3は最初の1年に生じた
でした。
- ジアゼパムを投与あり:80人 投与なし:77人
- アセトアミノフェンを投与:79人 投与なし: 74人
と記載されていましたが、それぞれの組み合わせで何人いたのか、詳細な記載はありませんでした。
解熱薬と熱性けいれんの再発について
こちらのテーブルが提示され、「統計学的な有意差がなかった」と記載されていますが、正直なところ、表の提示の仕方がめちゃくちゃで理解に苦しむ内容でした。
原因としては、
- 各グループの人数が明記されていない(エピソードにフォーカスしてしまっている)
- 再発の有無にフォーカスし切れていない
- 何と何を比較して統計学的な有意差があるのか、はっきりとわからない
といった点が挙げられます。
おそらくランダム化しているため、各グループは均等な人数のはずです。ここで、それぞれのグループの38人いたと仮定して考えてみましょう。
すると、熱性けいれんの再発率で見ると、
A | D | 再発率 | RR |
あり | あり | 14/38 (36%) |
1.00 |
あり | なし | 9/38 (23%) |
0.64 |
なし | あり | 18/38 (47%) |
1.28 |
なり | なし | 14/38 (37%) |
Ref |
となっています。*A = アセトアミノフェン、D = ジアゼパム
いずれも統計学的な有意差はありませんでしたが、アセトアミノフェンを使用したグループの方がやや再発のリスクが低く、ジアゼパムを使用したグループの方が高いようにも見えます。
治療開始から再発するまでの時間
ジアゼパムの使用の有無で再発するまでの時間(Time to event)を見ています。
こちらの生存曲線は、再発のリスク(= cumulative incidence)を見ています。
統計学的な検定(Log-rank test)では有意差はなかったようですが、ジアゼパム使用グループの方が、若干ですが再発リスクが高そうですね。
考察と感想
ややデータのプレゼンの仕方に問題のある論文のように思えました。
1990年代の論文なので、仕方ない面もあるとは思いますが、臨床的には非常に重要な点をリサーチクエッションにしていますので、非常にもったいなく感じてしまいました。
これはデータの提示の仕方もそうですが、著者らの結論にも表れています。
例えばこちらの文章でしが、著者らは「アセトアミノフェンに熱性けいれんの予防効果はなかった」と記載しています。
しかし、実際にrisk ratioを計算してみると、RR = 0.64 (95%CI, 0.32-1.28; p-value, 0.20)と低下しています。
おそらく95%信頼区間やP-値を見て「予防効果なし」としていますが、これは非常にミスリーディングな解釈の仕方です。
どのように解釈すべきは、疫学者や統計家でも異なると思いますが、例えば
- The point estimate (RR = 0.64) indicated moderate protective effects, but the estimate was inprecise
などと表現を置き換えることもできます。
RR = 0.64という数字を見て、治療効果なしと主張するのは少し無理があります。
ですが、95%CIやP-valueが有意水準を超えていない以上、治療効果ありと強く主張するのも異なります。
ちょうどこの間に収まる表現が良いのかもしれませんね。
こちらの文献に統計学的で得られた知見の表現・解釈の仕方が詳しく記載されていますので、詳しく知りたい方は読んでみると良いでしょう。
まとめ
少し話が長くなってしまいました。今回の研究の要点をまとめると、
- 解熱薬は少なくとも熱性けいれんの再発リスクを上昇させておらず、ひょっとしたら予防効果があるかもしれない
- ジアゼパムは2年という経過でみると、熱性けいれんの再発を明らかに予防するものではなさそう
という結果でした。