熱性けいれんは日本の小児ですと約7〜8%くらい、ヨーロッパなどでは2〜5%くらいの小児が発症すると考えられています。
熱性けいれん自体は良性のけいれんで、短時間で止まることがほとんどですが、けいれん発作自体がストレスですし、保護者の方々への心理的な負担ともなります。
熱性けいれんと解熱剤に関しては、昔から小児科医でも意見が分かれており、
- けいれんの予防効果はなく、誘発するからNG
- 予防効果もないし、誘発もしない
- 予防するかもしれない
と三者三様です。
2019年時点で、様々な研究に目を通していると、少なくとも「けいれんを誘発する」ことを証明できた論文は見当たりません。
この点からも、熱性けいれんのあるお子さんに解熱薬の使用は過度に心配しなくても良いでしょう。
一方で、解熱薬にけいれん予防効果があるか否かは、報告によって異なります。
今回は、熱性けいれんに対して、解熱薬を定期的に使用する場合と、発熱に気づいたときに使用する場合を比較した研究を紹介します。
研究の方法
今回の研究は1989年〜1990年にイスラエルで行われたランダム化比較試験(RCT)で、
- 生後6ヶ月〜5歳
- 入院患者
- 初回の単純型熱性けいれん
- 慢性疾患や発達障害がない
を対象に行われました。治療ですが、
- 4時間おきに解熱薬を定期的に使用する(定期使用)
- 37.9℃以上を確認した場合に解熱薬を使用する(頓用)
の2つのグループに分けています。
4時間毎の定期使用グループは、体温が平熱に戻って12-18時間後に内服を終了するようにしています。あるいは、入院後4日目に解熱剤の定期使用を終了としています。
アウトカムについて
著者らはmethodに明確には記載していませんでしたが、アウトカムは
- 入院期間中のけいれん再発率
- 再発時のけいれん持続時間
をみています。
研究の結果と考察
最終的に104人の小児が研究に参加しました。
- 定期使用:53人
- 頓用:51人
となっています。
両グループで、年齢や性別は似通った分布をしていました。
こちらは入院の原因となった疾患のリストです。
熱性けいれんの再発率と持続時間について
熱性けいれんの再発と持続時間の結果は以下の通りです:
定期 53人 |
頓服 51人 |
RR | |
再発 | 4 (7.5%) |
5 (9.8%) |
0.77 |
持続時間 (SD) |
2.7分 (1.3) |
2.5分 (1.1) |
再発率は7.5%と9.8%でして、定期使用グループの方が若干リスクが低いようにも見えます。RRで見ると0.77ですので、再発リスクは23%ほど減少しています。
一方で、95%CIは広く、かなり不正確な推定となっています。
アセトアミノフェンの使用量について
こちらは2つのグループでのアセトアミノフェンの使用量をみています。
実は頓用したグループもかなりの量が使用されているのが分かります。
日本の実臨床でここまで大量に使用するケースはそれほど多くないので、少し驚いてしまいます。
それと同時に、この研究の問題点とも言えます。
考察と感想
著者らはこれらの結果をもとに、解熱剤の予防投与は、熱性けいれんの再発予防の「有効性がない」とまで言い切っています。
少し考えさせられる文章ですね。
先ほどにも記載したように、95%CIが広いとはいえ、Risk Ratioで見れば0.77で予防効果が示唆されています。本当に有効性がないというには、類似の研究を繰り返し行わないとわからない現状で、「有効性がない」と言い切ってしまう点に違和感を感じます。
また、「有効性を評価する」とはどういうことなのか、一度、基本に立ち返って考えてみました。
そもそも「有効性」を検討した研究とは、相対的なものです。
つまり、解熱剤によるけいれん再発の予防効果を検討するには、異なる2つの治療グループを比較しなければなりません。
つまり、治療Aに対して治療Bがどうかという、相対評価になるわけです。
今回の研究は解熱剤の使い方による相対評価をしています。
つまり、「4時間毎に解熱剤を使用」 vs. 「37.9℃以上で解熱剤を使用」の2つの治療方針による違いを見ているのです。
結果的に使用したアセトアミノフェンの量から見ると、「74-106 mg/kg/day」と「44-59 mg/kg/day」を比較しています。
例えば、プラセボ(無治療)と比較して、アセトアミノフェンがけいれん再発に無効であるかは、この研究からは分からないのです。
単に、頓用使用と比較して、定期使用に有効性ははっきりと認めなかったというだけなのです。
過度に研究結果を単純化してしまうと「アセトアミノフェンの定期使用に予防効果なし」となります。
しかし、「発熱時の頓用と比較して、アセトアミノフェンの定期使用では有効性ははっきりとは認められなかった(あるいは有効性は示唆されたが、推定された値は不正確)」というのでは、随分と受ける印象が異なると思います。
まとめ
今回の研究では、発熱時の頓用と比較して、アセトアミノフェンの定期使用では有効性ははっきりとは認められませんでした。
コントロールグループでもそれなりの量のアセトアミノフェンを使用しているため、研究の解釈は慎重に行いたいところです。