- 「解熱薬って、本当に熱が下がるのですか?」
- 「解熱薬を飲むと、かぜの症状が長引くのは本当ですか?」
- 「解熱薬を飲ませると、熱性けいれんを引き起こすからダメと言われました」
など、小児科外来でよく質問されることがあります。
今回はこれらの質問に答えるために複数回でブログ記事にしてきましたが、そちらのまとめを簡単にしていこうと思います。
解熱薬に解熱効果はあるのか?
- 咳止めに咳止め効果がはっきりしなかった
- 鼻水止めを使用しても、思った以上に鼻水が止まらなかった
といった研究を過去に紹介してきました。
こういった研究を紹介してしまうと、「ひょっとしたら解熱薬も効かない?」と心配になってしまうかもしれません。
ですが、解熱薬の解熱効果は基本的にきちんと確認されています。
例えばこちらの研究ですが、
- 無治療
- 解熱薬
- 氷嚢
- ぬるま湯に浸したスポンジで体を拭く
などの方法で、解熱効果を確認しています。
結果として、無治療のグループは熱は下がりませんでしたが、解熱薬を使用したグループは使用後90分〜120分ほどかけて、ゆるやかに解熱しています。
解熱薬の種類によって解熱効果は異なるのか?
小児の解熱薬は主に2種類でして、アセトアミノフェンとNSAIDs(イブプロフェンなど)がメインになります。
一般にイブプロフェンのほうが解熱効果が強く、アセトアミノフェンのほうが弱いと考えられていますが、実際のところはどうでしょうか?
こちらの研究ではアセトアミノフェンとNSAIDsの解熱効果を比較していますが、やはりNSAIDsのほうが解熱効果は強かったです。
使用後2ー3時間ほどかけて解熱効果が最大になっていますが、NSAIDsのほうが、0.5〜1℃ほど解熱効果が強くでています。
こちらの研究でも同様のデザインで、アセトアミノフェンとNSAIDs(イブプロフェン)の解熱効果を比較しています。
どちらの薬も2−3時間ほどかけて緩やかに解熱効果が出ています。
こちらでもNSAIDs(イブプロフェン)のほうが、やや強く解熱効果がでています。
解熱効果が強いほうが良いのか?
発熱してしまうと、体温の推移に一喜一憂してしまいます。
確かに体温はわかりやすい指標ですし、数値化できるため、ある意味、当然のことと思います。
一方で、体温に固執しすぎてしまうと、体温を下げることが目的になってしまいます。
すると、強い解熱薬のほうが一見すると良さそうに思えます。
まず、解熱薬を使用する前に、解熱薬を使う意味について考え直してみましょう。
多くの小児科医は、解熱薬を体温を下げることを目的として処方しているのではなく、お子さんの苦痛をとることを目的に使用しています。
例えば。39℃あっても、お子さんに活気があり、食事・水分がとれて、室内で遊ぶ元気があれば、解熱剤を使用せずに様子をみていてよいと思います。
一方で、38℃中盤でも、ぐったりとして、機嫌が悪く、寝つきが悪いようなら使用してみてもよいと思います。
小児でよく使用されるアセトアミノフェンもNSAIDs(特にイブプロフェン)も用量・用法を守れば基本的には安全な薬です。
解熱薬でかぜ症状は長引くのか?
- 「かぜに解熱薬を使用すると、かぜ症状がかえって長引くよ」
と指導されていることもあるようです。
一見するともっともそうな、この指導方法に根拠があるかみていきましょう。
解熱薬を使用すると病原体のクリアランスが遅くなる?
こちらはマラリアに罹患して小児についての研究ですが、解熱薬を使用したほうが、
- 平熱にもどるタイミングは早い
- マラリアを排除する時間は長い
といった特徴がありました。
確かにこの研究だけみると、解熱薬を使用すると熱は早く下がる反面、病原体のクリアランスが遅くなる懸念が出てきますが、途上国で行われたマラリアを対象とした研究を、先進国の小児のかぜにまで一般化するのは、やや厳しいように感じます。
解熱薬を使用してもかぜ症状を長引かせることはなさそう
こちらの研究は、カナダのかぜの小児を対象に、解熱薬がかぜ症状などにどのような影響があるかをみています。結果としては、解熱薬を使用しても
- 発熱は長引かない
- かぜ症状は長引かない
- 活気や注意力などはメリットがありそう
といった結果になっています。
1つの研究で断定するのは難しいですが、解熱薬を使用によるかぜ症状の遷延は、そこまで気にしなくてよいのではないでしょうか。
解熱薬と熱性けいれんについて
- 「解熱薬を使用すると、熱がアップダウンして熱性けいれんの原因になるから、使ってはいけない」
とやや極端な見解をもった小児科医もいます。
随分と前の話になりますが、私が初めてお世話になった小児科の指導医も、同じことを言っていました。
ですが、過去の研究を参照すると、これとは逆の結果が出てきます。
最新のもので話題になった研究というと、国内のこちらの研究でしょうか:
こちらの研究では解熱薬を使用したグループのほうが、熱性けいれんの再発率は低くなっています。
過去の研究を遡ってみるとどうでしょうか:
こちらの研究は1990年代にオランダで行われた研究です。
統計学的な有意差はないものの、やはり解熱薬を使用したグループのほうが再発率はやや低めで、そのタイミングも遅い傾向にあります。
どうやら解熱薬を使用しても、熱性けいれんの再発率は上がらなそうなので、必要以上に恐る必要はないと思います。
また、解熱薬は小児のかぜなど発熱時に使用できる数少ない薬の1つです。
発熱時の苦痛には必要とするお子さんもいますので、必要以上に不安を煽るのはよくないと考えています。
まとめ
解熱薬に関する科学的根拠をざっくりとまとめてきました。
小児で使用される解熱薬は、アセトアミノフェンとNSAIDsがメインですが、
- 解熱効果はあり、2−3時間かけて緩やかに解熱する
- 熱による苦痛がとれ、活気が改善することもある
- かぜの症状を長引かせるわけでない
- 熱性けいれんの再発を誘発しないし、むしろリスクを下げる可能性も指摘されている
あたりが今回のまとめとなります。