日本国内において、整腸剤は下痢で受診されたお子さんに非常によく使用されるお薬です。
国外を見つめ直してみても、似たような診療プラクティスをしているようです。
胃腸炎は日本のような先進国であれば、致死的になるケースは非常に稀ですが、途上国では乳幼児の死亡のメジャーな原因です。
例えば、世界的には700万人の5歳未満の小児が死亡していますが、このうち15%は胃腸炎に関連していると推定されています。
また、日本を含む先進国にとって安くて手軽に手に入る薬も、途上国にとっては非常に大きな負担になることがあります。
このため、有効性の確実な治療薬を小児の胃腸炎患者に使用したい実情もあるのでしょう。
今回はベトナムで行われた研究をピックアップしました。
ベトナムにおいても、5歳未満の乳児死亡の原因の11%が胃腸炎と推定されているようです。
ベトナム以外の国で行われた研究結果では、有効性を示唆したものが多数ありますが、実際にベトナムの小児に使用して有効性があるか否かは不明であるため、今回の研究が行われたようです。
研究の方法
今回の研究はベトナムの小児病院2施設でランダム化比較試験(RCT)が行われました。
- 9〜60ヶ月の小児(入院患者)
- 急性の水様性の下痢がある:1日3回以上
- 血便なし
- 重症でない
- 慢性疾患なし
などが対象となっています。治療は、
- Lactobacillus acidophilus (乳酸杆菌)
- プラセボ(マルトデキストリン)
のいずれかをランダムに割りつけ、12時間毎に5日間のませるように指導しています。
アウトカムについて
アウトカムについてですが、
- 下痢の期間:治療開始後と全期間
- 入院日数
- 下痢の回数
- 治療の失敗:下痢が改善しない
などを計測しています。
研究の結果と考察
最終的に300人が研究に参加しました。
143名は乳酸杆菌、147名はプラセボを割り付けられています。
月齢の中央値は15.5ヶ月、男児が2/3ほどでした。
下痢の期間について
こちらは論文中のfigureになります。
Y軸は下痢が続いている確率、X軸は治療後の期間です。
グラフをみてわかるように、乳酸杆菌を与えても、プラセボを与えても、下痢が軽快する確率は、2つのグループで変化なさそうに見えます。
サブグループ解析
サブグループに分けてみても、結果はあまり変わりませんでした。
中央値をひかくしてみると、乳酸杆菌を使用したグループのほうが、やや良好な印象をうけますが、IQRは広く、統計学的な有意差はありません。
黄色で示しましたが、ノロウイルスの患者でのみ、統計学的な有意差がでています。
そのほかのアウトカムについて
そのほか、
- 下痢の全期間
- 治療の失敗率
- 下痢の回数
- 入院期間
- 嘔吐回数
なども計測していますが、いずれも有効性は示唆されませんでした。
考察と感想
ベトナムの研究では乳酸菌製剤を使用するメリットはなさそうでした。
他国での研究結果を自国に一般化するのが難しい例ともいえます。
「整腸剤は下痢に有効であった」と大規模な臨床研究やメタ解析で示唆されても、必ずしもその結果が自分の住んでいる国や地域に一般化できないことがあります。
理由はケースバイケースですが、今回を例にすると
- 治療が微妙に異なる:同じ菌株でない
- 原因となる病原体が異なる:流行しているウイルスや細菌
- 栄養状態が異なる:下痢の治りやすさ
などの違いで有効性を認めないケースもあります。
RCTなどで「〇〇が有効性あり」と報告されていますが、どのような状況で、どのような人を対象に行われた研究かを吟味して考える必要があるのでしょう。
まとめ
今回のベトナムで行われたRCTでは、乳酸杆菌は小児の下痢に対して有効性ははっきりとは認められませんでした。
胃腸炎と一言でいっても、病原体は多数ありますし、罹患した小児の栄養状態によっても治り方がことなりますので、一般化には注意が必要でしょう。