プロバイオティクス、亜鉛、乳糖フリーのミルクなど、よく胃腸炎で使用される薬や対処法ですが、これらの有効性を一度に比較した論文を見つけたので、こちらでご紹介します。
ロタウイルスワクチンが導入されるまで、乳幼児の胃腸炎の原因で多いのはロタウイルスでした。先進国で胃腸炎で乳幼児が死亡するケースは非常に稀ですが、途上国では医療のリソースが不十分で、年間35万〜60万人ほどがロタウイルスへの感染を契機に死亡しています。
胃腸炎の治療の基本は脱水予防、脱水の改善であり、適切な水分・糖分・塩分を経口補水液や母乳・ミルクなどを介して摂取することです。近年、プロバイオティクスの有効性が示唆されており、これらの研究でよく使用されているものは、
- Lactobacillus GG
- Saccharomyces boulardii
の2種類になります。
プロバイオティクスがなぜ有効なのかははっきりと分かっていないのですが、
- 病原体の腸管への付着・侵入を阻害する
- 腸の粘膜を整える
- 免疫反応を調整する
- 抗菌作用のある物質を産生する
- 腸にある受容体を調整する
などが挙げられます。
また、プロバイオティクス以外にも、亜鉛や乳糖摂取を制限することで胃腸炎の症状が和らぐ可能性も指摘されています。
例えば、亜鉛は下痢の症状をするかもしれません。またロタウイルス感染後に30〜50%で二次性乳糖不耐症に、通常の胃腸炎でも4.3&〜18.4%が同症状を起こすと言われています。
このため今回の研究は、
- プロバイオティクス
- 亜鉛
- 乳糖制限
の3つの治療を同時に評価しています。
研究の目的
今回の研究はトルコの単施設で、2008-2010年に行われた研究です:
- 1〜28ヶ月
- ロタウイルス胃腸炎
- 96時間以内の下痢
- 1日に3回以上下痢あり
- 慢性疾患なし
- 完全母乳栄養ではない
などが対象となっています。治療は、
- プロバイオティクス:Saccharomyces boulardii
- 亜鉛
- 乳糖フリーのミルク
のそれぞれの組み合わせを見ています。2 x 2 x 2 = 8通りです。
アウトカムについて
- 下痢の期間
- 嘔吐の回数
- 便の回数
- 体温
などをアウトカムとしてみています。
研究結果と考察
480人の小児(60人 x 8グループ)が研究に参加しました。患者背景の特徴として、
- 年齢:平均14歳
- 男女:6 対 4
- 嘔吐:88%
- 発熱:40%
でした。
アウトカムの比較
グループ | プロバイオティクス | 亜鉛 | 乳糖フリーミルク |
1 | あり | ||
2 | あり | ||
3 | あり | ||
4 | あり | あり | |
5 | あり | あり | |
6 | あり | あり | |
7 | あり | あり | あり |
8 |
となり、8がコントロールグループです。
下痢の期間について
下痢の期間に注目してみていきましょう。基本はコントロールを基準にみていきます。
例えば、プロバイオティクス(Pro)の効果を中心に見ると、
コントロール | 5.35日 |
Pro | 4.78日 |
Pro + 亜鉛 | 3.11日 |
Pro + 乳糖フリーミルク | 4.55日 |
全て | 4.36日 |
あまり一貫した成績ではないですが、プロバイオティクスを使用すると、半日ほど軽快が早くなっている印象を受けます。
さらに亜鉛を追加すると、1.5日ほど短くなっている印象があります (Pro + 亜鉛)。
とはいえ、この結果に一貫性はなく、「全て」のグループではこの相加効果は0.4日ほどです。
次に、亜鉛の有効性を見てみましょう。
コントロール | 5.35日 |
亜鉛 | 3.41日 |
亜鉛 + Pro | 3.11日 |
亜鉛 + 乳糖フリーミルク | 4.75日 |
全て | 4.36日 |
亜鉛単独を与えると、1.9日ほど下痢の期間が短くなっています。プロバイオティクスを追加すると、さらに0.3日ほど期間が短縮しています。
一方で、乳糖フリーミルクを追加すると、治療効果が阻害されている印象すら受けます。
最後に乳糖フリーミルクに注目してみていきましょう。
コントロール | 5.35日 |
乳糖フリーミルク | 4.46日 |
乳糖フリーミルク+ Pro | 4.55日 |
乳糖フリーミルク + 亜鉛 | 4.75日 |
全て | 4.36日 |
乳糖フリーミルクを使用しても0.9日ほど下痢の期間が短縮しますが、プロバイオティクスや亜鉛を追加しても追加で効果は認められませんでした。
考察と感想
今回の研究はプラセボは置いてない点は少し差し引いて解釈した方が良いと思います。
プロバイオティクス、亜鉛、乳糖、それぞれ胃腸炎の期間短縮に役立っていそうな印象ですが、全部処方すれば良いというわけではなさそうです。
今回の結果では、亜鉛とプロバイオティクスの組み合わせ、または亜鉛のみが一番成績が良さそうでした。
とある疾患に「Aが有効」「Bが有効」「Cが有効」と言われていても、「じゃあ全部一緒に使おう」はNGのこともありますし、逆に組み合わせた方が良いこともあります。
それぞれの薬通しが相互作用を起こしたり、逆に阻害し合ってしまうこともあるからです。
まとめ
今回の研究では、亜鉛のみ or 亜鉛 + プロバイオティクスが小児の下痢の期間短縮には良さそうな印象でした。
しかし、同様の結果が、ロタウイルス以外の胃腸炎や、栄養状態のより良い他の先進国でも得られるかは、他の研究結果を参考にしたいところです。