これまでご紹介してきた研究は、比較的、下痢が始まって早期の小児が中心でした。
一方で、下痢がやや長引いでいるケースで、プロバイオティクスが有効かどうかは別に検証する必要があります。
そこで今回はこちらの論文をピックアップしました。
これまでの研究でよく使用されてきたプロバイオティクスは、
- Lactobacilli
- Bifidobacteria
- Saccharomyces boulardii
あたりでした。
今回の研究では、E. coli(大腸菌) Nissel 1917 (EcN)というプロバイオティクスを使用しています。この菌株は、1917年にA. Nissleによって分離され、下痢の患者に使用されてきた欧州で歴史あるプロバイオティクスです。
下痢直後の患者に投与をすると、下痢の期間が改善することが示唆される研究が複数あるようです。しかし、下痢が始まってしばらくしてから投与しても改善効果があるのかは不明であるため、今回の研究が行われたようです。
研究の方法
今回の研究は、多施設二重盲検ランダム化比較試験が行われました。
ロシアのモスクワ、ウクライナの都市の大学病院付属のクリニックでRCTが行われています。
対象となったのは、
- 1〜47ヶ月の乳幼児
- 1日あたり3回以上の下痢がある
- 4日以上、連続して症状がある
- 14日以上続いているわけではない
- 血便はない
- 重症な疾患はない
などを対象としています。治療は、
- E. coli(大腸菌) Nissel 1917 (EcN):10^8/ml
- プラセボ
をランダムに割付ています。(プラセボはに関して詳細は記載されていませんでした)
薬の投与に関しては、
- 1歳未満:1日1回 1ml
- 1ー3歳:1日2回 1回あたり1ml
- 3ー4歳:1日3回 1回あたり1ml
を投与し、21日間の治療をしています。
アウトカムについて
アウトカムは、
- 下痢が改善するまでに要した時間
- 下痢症状の改善
- 全身状態
- 副反応
などをみています。
研究結果と考察
最終的に151人が解析対象となり、
- EcN:75人
- プラセボ:76人
でした。
下痢の原因をみていますが、分離されたものを見ると、細菌性が2割強、ウイルスは2割弱でした。ウイルスはノロ、アデノ、ロタをみており、最近は、カンピロバクター、サルモネラ、エルシニア、赤痢、病原性大腸菌を検出しています。
下痢症状の改善について
治療開始後の期間によって下痢症状の改善率を比較していますが、以下の通りです。
EcN N = 75 |
プラセボ N = 76 |
P | |
7日 | 59 (78.7%) |
45 (59.2%) |
0.08 |
14日 | 70 (93.3%) |
50 65.8%) |
0.002 |
21日 | 74 (98.7%) |
54 (71.1%) |
<0.001 |
7〜21日の期間で見ると、下痢の改善率はプロバイオティクスをしているグループの方が、20%-30%ほど高くなっていますね。
こちらの図は論文から横軸が治療開始からの日数、縦軸が軽快した人の割合をみています。
プロバイオティクス(EcN)を使用したグループの方が、軽快した人の割合は一貫して高いですね。(論文から図は拝借)
考察と感想
使用する国や地域によってプロバイオティクスが異なり、また胃腸炎の原因となる病原体の分布も違いがあり、プロバイオティクスと下痢というテーマですら、かなりの奥深さを感じます。今回のように、歴史のあるプロバイオティクスがあることにも驚きました。
研究全体としては異論がなく、かなり綺麗なデータを提示していると感じました。
例えば、上の生存曲線ですが、非常に綿密にアウトカムを計測した証でもあります。
また、治療効果も一貫しており、少し下痢が長引いているお子さんにプロバイオティクスを使用しても、治療効果が期待できることが示唆される研究内容でした。
強いていうなら、ウイルスや細菌培養の詳しい結果が知りたかったですね。
まとめ
今回の研究は、ロシア・ウクライナにおいて4歳以下の小児の4日以上の下痢を対象に、プロバイオティクスの有効性を確認しています。
プロバイオティクスを投与したグループの方が、1〜3週間で下痢の改善率が20%-30%ほど高く、有効性が示唆される内容でした。