近年、薬剤耐性菌の増加に伴い、抗菌薬の適正使用が推奨されています。
特に広域抗菌薬(広く様々な菌を殺す抗菌薬)の不適切使用・過剰使用を抑えることが非常に大事です。
90%の抗菌薬は外来で使用されているため、外来に受診された患者さんへの適正な処方が重要と考えられています。
WHO Model List of Essential Medicines for Children(EMLc)について
2017年にWHOは小児における必要不可欠な医薬品のリスト(WHO Model List of Essential Medicines for Children (EMLc))を改定しました。
この中で、抗菌薬を以下の3つの種類に分類しています:
- Access
- Watch
- Reserve
1. Access Group
「Access」に分類された抗菌薬は、感染症治療の第一選択/第二選択で使われる薬です。
具体的には以下の抗菌薬が該当します(表はEMLcより):
例えばアモキシシリンは軽症〜中等症の市中肺炎の第一選択と考えられています。
このため、近年はamoxicillin indexという指標もあり、
- アモキシシリンの量/全体の抗菌薬の量
で計算され、この値が高いほど抗菌薬が適正に使用されていると考えられます(*量: standard units)。
2. Watch Group
Watch Groupの抗菌薬は、耐性化の可能性から、特殊なケースに限定されるべき薬となっています。具体的には、以下の表が対応します:
3. Reserve Group
最後のReserve Groupですが、こちらは「最終手段」と考えられている抗菌薬です。
例えば多剤耐性菌への感染で生命の危機がある状態が該当します。この抗菌薬のリストは以下になります:
前置きが長くなってしまいましたが、今回はこちらの論文をピックアップしています。
抗菌薬の売り上げデータから5歳未満の小児の適正使用率を検討しています。
研究の方法
今回の研究は、IQVIA-Multinational Integrated Data Analysis Systemという、抗菌薬の売り上げデータをしようして、乳幼児への適正使用の状況を70カ国で確認しています。主に5歳以下の小児が対象です。
抗菌薬の消費量のパターンは、先ほど提示した
- Access
- Watch
- Reserve
の分類して分析します。
Access groupでも、「*」のマークがついている抗菌薬は限られた状況でしか使用されないため、Watch groupに分類されています。(アジスロマイシンやシプロフロキサシンなど)
さらにAmoxicillin Indexも計算して国際比較をしています。
研究結果と考察
こちらが研究結果となります。(論文より拝借)
黄色で印をつけたところが日本で、70カ国で下から3番目の成績です。
薄い緑の箇所が「Access」の相対的な消費量になります。このため、緑の領域が多いほど、適正に使用されている割合が高いと考えています。
High-income countryに限定した解析
高所得国(High-income country)に限定すると、以下の通りになります。
Amoxicillin Indexは中の下くらいの成績ですが、Accessの抗菌薬は高所得国で最低の成績でした。
考察と感想
5歳以下の小児を対象とした研究で、日本の抗菌薬の適正使用の状況が、世界的にみて、かなり残念な状況にあるのが浮き彫りになってしまいました。
私もブログ上で何度か抗菌薬の不適切使用は取り上げてきました。
例えば、日本の小児科外来ではマクロライドが多用・乱用されています。結果として、マクロライドの耐性菌が非常に多くなっています。
さらに、第3世代セフェムの乱用・多用も目立ちます。小児のかぜにも多数使用されていたというデータも複数あります。
厚労省も抗菌薬の適正使用に動き出しています。
ですが、実際に抗菌薬を処方するのは医師で、これまでの診療パターンを変化させるのは、一筋縄ではいかないことが予測されます。
「適切に使用しよう」では響かない医師も中にはいるでしょう。今回提示されていたamoxicillin indexで診療所・病院レベルでモニターする、使用制限を作るなど、何らかのテコ入れが必要と個人的には感じています。
まとめ
今回の研究は、2015年の抗菌薬消費量のデータから、5歳未満の小児を対象に、抗菌薬の適正使用を確認しています。
日本は中・高所得国で下から3番目の成績で、高所得国では最低ランクでした。
何らかのアクションでテコ入れをしないといけないのは明らかですね。