今回はプロバイオティクスの一種であるLactobacillus casei GG (LGG)の有効性を検証した研究のご紹介をします。
こちらの研究はペルーで行われ、プロバイオティクスが乳幼児の下痢に有効であるのかを確認しています。
2004年に発表された論文ですが、それ以前は割と先進国でプロバイオティクスの有効性が検証されるケースが多く、途上国にも一般化できるのか不明であったのが研究の主な目的だったようです。
文献は以下となります。こちらはopen accessですので、無料で読むことができます。
研究の方法
今回の研究は3ヶ月〜36ヶ月の小児を対象に、1991年〜1992年にかけて行われた二重盲検ランダム化比較試験になります。対象となったのは、
- 水様性下痢が3回以上
- 下痢が発症してから48時間以内
- 慢性疾患なし
- 重篤な状態ではない
などを対象にしています。治療は、
- プロバイオティクスあり:Lactobacillus casei GG
- プロバイオティクスなし:プラセボ
とし、5日間の投与をしています。
アウトカムについて
アウトカムは、
- 5日後の下痢の有無
- 下痢の期間
- 入院期間
- 下痢の回数
などを指標にしています。
研究結果と考察
最終的に179人の患者が研究に参加し、
- 90人がプロバイオティクス
- 89人がプラセボ
を割り当てられました。患者背景の特徴は、
- 平均 14.7ヶ月
- 治療前の平均下痢期間は30時間ほど
- 下痢の回数は6.6回
でした。(詳細は論文を参照)
胃腸炎を起こした原因菌・ウイルスですが、
- ロタウイルス:およそ3分の1
- 不明:40%ほど
- 病原性大腸菌:15%ほど
となっています。
研究のアウトカムについて
主なアウトカムを比較していきましょう。以下の表の通りです。
プラセボ N = 89 |
LGG N = 90 |
|
下痢の期間 | 50.4 (28.0) |
58.5 (30.2) |
入院期間 | 74.7 (33.7) |
81.2 (32.6) |
下痢の量 (ml/kg) |
195 (171.9) |
247.8 (180.2) |
パッとみて分かってしまいますが、プロバイオティクスを使用したグループも、プラセボグループも似たような結果です。ややプラセボグループの方が良かった印象がありますね。この表だけでいうと、プラセボグループの方が、
- 下痢の期間がやや短い
- 入院期間がやや短い
- 下痢の量がやや少ない
となっています。特に最後の下痢の量は、統計学的な有意差がありました。
感想と考察
プロバイオティクスの有効性を示した研究は割と多いですが、今回の研究はそうではありませんでした。
原因は色々と考えられると思います。
例えば、今回使用したプロバイオティクス(LGG)は、従来使用されてきたプロバイオティクス(L. rhamnosusなど)とは異なります。
プロバイオティクスの菌株が異なれば、同じ治療をしているようで、実は微妙に異なるわけなので、有効性が確認できなくなってしまうケースはあるでしょう。
この辺り、「プロバイオティクス」の研究を解釈する際に、どのプロバイオティクスが使用されてきたのはを意識する必要があると言えます。
胃腸炎の原因となった病原体にも注目が必要です。
今回はロタウイルスが1/3程度と、ロタウイルスワクチンが普及する前の研究としては、やや少なめの印象です。
1990年代に行われた研究は、ロタウイルスがメインの対象のものが多いので、この辺りが原因かもしれませんね。
あとは、著者らがdiscussionで述べていましたが、乳糖不耐症の可能性も指摘しています。
というのも、プロバイオティクスを使用したグループの方が、便が酸性で炭水化物の吸収率が低い傾向にあったためです。
詳細なメカニズムは不明ですが、LGGが乳糖不耐症を誘導し、プリバイオティクスの本来ある有効性を相殺してしまったのかもしれません。しかし、この理論も検討は不十分で、追加で調査が必要でしょう。
まとめ
今回の研究は、プロバイオティクスは小児の下痢を短縮させる効果はなさそうで、むしろ使用しているグループの方がやや下痢の量が多くなりました。
原因ははっきりとわかりませんが、プロバイオティクスは種類や使用する患者背景を気にする必要がありそうですね。