先日も、乳幼児の抗ヒスタミン薬と熱性けいれんの持続時間について解説してきました。
ほとんど国内からの報告が多いのですが、2018-2019年にかけて複数の論文が掲載されているのを教えてもらい、追加記事を記載することにしています。
こちらは前回ご紹介した記事です:
抗ヒスタミン薬と熱性けいれんの繋がりについて、詳細なことは確定的にわかっているわけではありませんが、ヒスタミンはけいれん時など脳の活動を抑制させる働きがあるようです。
抗ヒスタミン薬を内服すると、脳にあるヒスタミン受容体もブロックさせてしまうため、けいれんが止まりづらくなり、長引いてしまうと考えられているようです。
生物学的なメカニズムが正しく思えても、実臨床ではそうでないことが多々あります。また、観察研究が主体であるため、常にバイアスへの配慮は必要です。
たくさんの研究を集めて検証する必要があります。
研究の方法
今回の研究は日本国内の多施設で行われ、
- 6ヶ月〜5歳
- 38℃以上の発熱
- 中枢神経系の感染なし
- 慢性疾患なし
などが対象となっています。
暴露(exposure)として、抗ヒスタミン薬の6時間以内の内服歴を聴取しています。さらに抗ヒスタミン薬は第一世代と第二世代に分けています。
アウトカムは
- けいれんの持続時間(> 5分)
- 局所症状
などを見ています。
(今回は、持続時間のみに注目します)
研究結果と考察
最終的に101人が解析の対象となりました。抗ヒスタミン薬の内服の内訳は
- 内服あり:23人
- 内服なし:78人
でした。そのほかの特徴として、
- 月齢は24ヶ月
- 男女比は男児がかなり多い
- 熱性けいれんの既往歴は40%であり
- 熱性けいれんの家族歴も40%弱であり
となっています。
2つのグループで、それほど大きなばらつきはなさそうでした。
けいれんの持続時間について
過去の研究と同様に、5分以上持続したけいれんの割合をカウントしています。それぞれの内訳は以下のTableのようになります。
抗ヒスタミン薬 | あり N = 23 |
なし N = 78 |
Risk Ratio |
> 5分 | 4 (17%) |
30 (38%) |
0.45 (0.18, 1.15) |
抗ヒスタミン薬を内服した方が、5分以上のけいれんのリスクが55%ほど低い結果でした。ただし、95%CIは広く、不正確な推定となります。
考察と感想
これまでの報告は、抗ヒスタミン薬はけいれんの持続時間を延長させる報告が多かったですが、今回は逆方向ですね。ちょっと意外な結果でした。
とはいえ、少し懸念していた点でもあります。
こちらの記事でも少し解説しましたが、過去の研究では抗ヒスタミン薬を使用したグループは、数ヶ月〜半年ほど月齢が低い傾向にありました。
しかも、この月齢による違いは統計学的には対象されていなかったため、交絡はそのままでバイアスが残っている可能性が懸念事項でした。
つまり、抗ヒスタミン薬が影響したというより、抗ヒスタミン薬を内服した人がより月齢が低く、脳が未熟なため、けいれんの持続時間が長かっただけなのかもしれません。
観察研究にはより不確実性がつきものですから、多くの研究がなされるべきですし、不確実性の1つであるバイアスはきちんと対処する必要があるでしょう。
また、雑誌側も「P > 0.05」だから、「no statistical association」だからと、掲載しないことを繰り返していると、publication biasを招くことも考慮する必要があると思っています。
確かにoriginal articleとして掲載するのが難しい場合もありますが、short communication、letterなどで変わりに掲載するなど、そういった工夫があっても良いと私は思っています。
まとめ
今回の研究は、過去のものとは異なり、抗ヒスタミン薬を内服しているグループの方が、けいれんの持続時間が長くなる可能性は低い結果でした。
ただし、サンプル数は比較的少なく、やや不安定な結果ですので、追加検証は必要と思います。