科学的根拠

生理食塩水の点鼻は乳児の細気管支炎に有効か? イタリア編

  •  風邪の症状の改善に鼻洗いは有効かもしれない

とするエビデンスが少なからず報告されています。一方で、「風邪ではなく、細気管支炎などではどうだろうか?」と気になるところです。
RSウイルス感染症などに合併して生じ、乳幼児に多い疾患です。

イタリアでも鼻洗いは日常的によく施行されている処置のようですが、細気管支炎に対する鼻洗いはガイドラインでは推奨されていないようです。
一方で、ガイドラインで推奨されていない割には、エビデンスが不足しているということで、今回の研究が行われたようですね。

研究の方法

今回の研究は2012年〜2014年にかけて、多施設共同でランダム化比較試験が行われました。対象となったのは、

  •  1歳未満の乳児
  •  細気管支炎で入院が必要であった
  •  SpO2が88%〜94%
  •  慢性疾患がない

などを基準としています。

治療について

治療は3つのグループにわけ、

  •  標準治療のみ
  •  標準治療 + 0.9%生理食塩水 1mlを点鼻
  •  標準治療 + 3%の生理食塩水 1mlを点鼻

としています。

点鼻には、1mlのシリンジを使用したようです:

鼻腔の吸引は行わなかったようです。

研究のアウトカムについて

研究のアウトカムは、

  •  SpO2の変化
  •  WARM score (wheeze, air exchange, respiratory rate, muscle use)

WARM/WARME Scoreの表は以下の通りです

Score 0 1 2
Wheeze なし 呼気終末に 全呼気/
吸気時
Air Exchange
(left, right,
front, right back)
正常 1箇所減少 2箇所以上
Resp. Rate 正常 多呼吸  
Muscle
(Retraction)
なし Subcostal
Intercostal
Neck
Abdominal
Prolonged
Expiration
なし 吸気の3倍以上  

*WARM scaleは細気管支炎に、これにE(Prolonged Expiration)を足したWARME scaleは喘息患者に使用しているようです。

研究結果と考察

最終的に133人の患者が研究に参加されました。内訳として、

  •  42人:標準治療のみ
  •  47人:標準治療 + 0.9%生理食塩水
  •  42人:標準治療 + 3%の生理食塩水

となっています。

酸素飽和度(SpO2)の変化について

こちらは酸素飽和度(%)を検証しています:

  Control 0.9%NS 3%NS
0 min 93 93 93
5 min 93 95* 94
15 min 94 96* 94
20 min 94 96* 95
50 min 94 96* 96*

最も成績が良かったの0.9%生理食塩水でした。使用して5分程度で酸素飽和度が上昇しています。
3%生理食塩水は0.9%より治療効果はやや劣るものの、コントロール群より良好な結果でした。

アウトカムを酸素飽和度が94%以上の小児の割合(%)にすると、以下のようになりました。

  Control 0.9%NS 3%NS
5 min 26.2% 53.2%* 34.1%
15 min 45.2% 78.7%* 38.6%
20 min 42.9% 74.5%* 61.4%
50 min 45.2% 83.0%* 79.5%*

上と同じような結果ですね。0.9%生理食塩水が即効性があり、酸素飽和度がすぐに上昇しています。

WARM scoreについて

WARM scoreは以下の通りでした

  Control 0.9%NS 3%NS
0 min 2 2 2
5 min 2 2 2
15 min 2 2 2
20 min 2 2 2
50 min 2 2 2

WARM scoreについてはどのグループも同じような結果でした。
雑多なスコアなので、うまく反映できなかったのかもしれないですね。

考察と感想

イタリアにおいて、乳児の細気管支炎に対して生理食塩水を1ml点鼻したところ、酸素飽和度が改善する傾向にありました。3%より0.9%の生理食塩水の方が成績は良さそうでした。

この研究の欠点として、blind(盲検化)が難しい点にあります。
アウトカムを評価する看護師は、盲検化されていたようですが、どこまで上手く機能していたかは、やや疑問です。
とはいえ、3%食塩水と0.9%食塩水で有効性にやや違いがある点は、盲検化の問題では説明できない印象を受けます。

3%生理食塩水より0.9%生理食塩水の方が有効性が高そうな印象がでた点も気になりました。しかし、著者らはこの点についてはdiscussionでは言及していなかったですね。
過去、生理食塩水の吸入などでは、3%の方が良好な結果が出たりしていたので、このあたりの説明を知りたかったです。

Sp02は改善しましたが、WARM scoreは改善しませんでした。
WARM scoreの方が、より臨床の症状に即して、実感できるレベルの変化と言えます。つまり、生理食塩水を点鼻しても、SpO2という細かな数値は多少は改善するかもしれないけれども、見た目や臨床的な改善というのは、やや難しいのかもしれないですね。

その他、気になる点としては、点鼻でどの程度入院日数に変化があったのか、親の満足度はどうであったか、睡眠はどうであったかなど、もう少し情報があっても良かった気がします。

まとめ

イタリアにおいて、乳児の細気管支炎に対して生理食塩水を1ml点鼻したところ、酸素飽和度が数%ほど改善する傾向にありました。3%より0.9%の生理食塩水の方が成績は良さそうでした。

一方で、WARM scoreという臨床上の指標は改善しませんでした。

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。