小児は頻繁に風邪をひきますし、風邪と一緒に副鼻腔炎を併発してしまうこともあります。
小児科外来受診の主な原因の1つであり、例えばアメリカですと年間18億ドルの医療コストがかかっていると考えられているようです。
急性副鼻腔炎ですが、最初は風邪の症状と変わりないのですが、風邪の症状が1週間〜2週間以上続き、時にさらに鼻水や痰がらみの咳が悪化したりする特徴があります。
鼻を生理食塩水で洗浄することで、副鼻腔炎の症状が軽快することがあります。
しかし、小児においてこの科学的根拠は限定的であるため、今回の研究が行われたようです。
研究の方法
今回の研究は、エジプトで行われたランダム化比較試験です。対象となったのは、
- 10日〜28日の上気道症状
- 膿性鼻汁、上顎や前頭の痛み。発熱などの症状があり
- 薬の内服はなし
- 慢性疾患なし
などを基準にしています。
治療について
治療は0.9%生理食塩水を15-20mlほど、1日1〜3回を基準に鼻洗いし、さらに
- アモキシシリン(抗生剤)あり
- プラセボ(抗生剤なし)
をランダムに割付ています。
アウトカムについて
研究のアウトカムは、
- 鼻の症状
- 鼻水の好中球・好酸球の割合
- QOLの変化
- 鼻腔の細菌培養の変化
などをみています。
研究結果と考察
最終的に62人が解析の対象になり、31人が抗生剤 + 鼻洗いを、31人が鼻洗いのみの治療を受けました。
母集団の特徴ですが、
- 平均5歳
- 男女比はややばらつきあり
- アレルギー性鼻炎は、抗生剤ありのグループは48.4%、なしは22.6%
- 喘息とアトピーはともに10%以下
- 症状は10日ほどあった
となっています。
特にアレルギー性鼻炎の既往歴のばらつきが気になりました。
症状について
- 鼻汁
- 鼻閉
- 鼻のかゆみ
- くしゃみ
- 顔の痛み
- 頭痛
- せき
- 喉の痛み
- 発熱
- 倦怠感
という10の症状を0〜10点で評価し、足し算にしたNasal symptoms scoreですが、以下のようになりました。
抗生剤 | あり | なし |
初日 | 56.96 | 59.70 |
初日 – 7日目 | 24.83 | 27.87 |
初日 – 14日目 | 39.51 | 40.87 |
鼻洗いに抗生剤を足しても、それほど変化がないのがわかります。
QOLについて
Pediatric Rhinoconjuctivitis QOL questionnaireという指標でQOLを評価しています。
難しい検査ではなく、鼻、目、その他の症状、活動制限などを0〜6点で採点してもらい、平均を記載したものです。
抗生剤 | あり | なし |
初日 – 7日目 | 1.86 | 1.91 |
初日 – 14日目 | 1.49 | 1.52 |
初日との差を治療効果としてみていますが、あまり大きな変化はなさそうです。
つまり、鼻洗いに抗生剤を付け足してみても、QOLはあまり変わらなさそうな印象です。
鼻汁中の好酸球と好中球の%
アレルギー性鼻炎の既往にばらつきがあるためか、鼻汁中の好酸球数の割合はグループ間で異なりました。最終的な割合を計算すると、以下のようになりました。
抗生剤 | あり | なし |
好中球 | 3.8% | 6.0% |
好酸球 | 1.6% | 0.3% |
著者らは差をとっていましたが、ベースラインが大きく異なるのと、%は0〜100までで限られているので、評価方法にやや疑問が残りました。
細菌培養の結果
14日後に細菌培養をとっていますが、両グループに大きな差はなさそうです
抗生剤 | あり | なし |
肺炎球菌 | 0 | 3.2% |
黄色ブドウ球菌 | 22.6% | 25.8% |
インフルエンザ桿菌 モラキセラ 溶連菌 |
0 | 0 |
培養されず | 77.4% | 71% |
副作用の報告
抗生剤使用に伴う副作用として下痢があります。この頻度を比較しています。
抗生剤 | あり | なし |
副作用あり | 18 (58.1%) |
8 (25.8%) |
下痢あり | 9 (29%) |
1 (3.2%) |
腹痛あり | 5 (16.1%) |
4 (12.9%) |
嘔吐あり | 2 (6%) |
5 (16.1%) |
やはり抗生剤を使用したグループの方が、下痢の頻度は多いですね。
考察と感想
今回の研究では、小児の副鼻腔炎の治療として、鼻洗いの抗生剤を追加しても、あまりメリットはなさそうで、むしろ下痢の副作用というデメリットが目立つ印象でした。
気になった点としては、ランダム化の時点でアレルギー性鼻炎に大きな偏りがある点ですね。どちらのグループも鼻洗いしているので、あまり影響はないのかもしれませんが、ベースラインの指標が両グループで異なっている項目が多い点が研究全体として気になりました。
この研究の懸念点としては、鼻洗いをどれだけ受け入れられるか、という別の問題もあるように思います。
エジプトやインドなどでは、割と日常的に行っている行為とはお聞きしたことがあるのですが、例えば日本ですと鼻洗いをする文化はないので、かなり抵抗感があるのではないでしょうか。
かくいう私も鼻洗いはここ5−6年は毎日のようにしていますし、すっきりして気持ちいいとすら感じているのですが、やったことがない人にすれば「痛くないの?」「怖い」などと言われることもあります。
真水で鼻を洗えば痛いですが、適切な濃度の生理食塩水なら全く痛みはありませんし、怖がる必要もないのですけどね。
プールなどで鼻に水が入り、痛い思いをした記憶が強いのでしょうか。
まとめ
今回の研究では、小児の急性副鼻腔炎に対し、鼻洗いに抗生剤を追加するメリットがあるのか検討をしています。
全体として、鼻洗いに抗生剤を追加しても、あまりメリットはなさそうで、むしろ、下痢を起こす可能性があります。
ただし、鼻洗いの実践に抵抗感がある方がいるのも、臨床医としては留意しておく必要があると思います。
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