今回は遺伝疫学におけるCase only designについて解説をしていきます。
Case only designはちょっと聞きなれない言葉かもしれませんが、その名の通り「Case = 疾患に罹患した人」のみの研究手法です。
遺伝疫学について、一通りの学習をしたい方は、以下の教科書をお勧めします:
Case Only Design(ケース・オンリー・デザイン)について
Case only designですが、Case(例:疾患を発症した人)のみを対象に研究を行う方法を言います。Case のみになってしまう理由は様々ですが、
- 適切なコントロールを集めることができなかった場合
などが多いでしょう。例えば、Case-control研究では、controlはCaseとなりうる可能性のある人で、発症していない人から、ランダムにサンプルする必要があります。
しかし、この適切なControlを集められない場合は、選択バイアスを招く恐れがあります。
また、相互作用をみる場合(例えば遺伝子 x 環境因子の相互作用)、統計学的な検定力が必要となります。
特に、まれな疾患ですと、相互作用を見れるだけのpowerが足りないため、case-only designがされる場合もあります。
Case only designの方法
遺伝疫学では遺伝的な素因 (G) x 環境因子(E)の相互作用を見ることが多いですが、case-only designでは、これだけに注目して検定を行います。
2 x 2 Tableに基づいた解析ですと、
疾患あり | ||
G(+) | G(–) | |
E(+) | a | e |
E(–) | c | g |
の4つ箇所(a, c, e, g)の情報を集め、case-only Odds Ratio (OR)を計測します:
- case-only OR = (a*g)/(c*e)
このcase-only OR > 1の場合、相互作用があることが示唆されます。
Case-only designの欠点
Case-only designの欠点ですが、
- Main effect(遺伝子や環境がアウトカムに直接与える影響)はわからない
- 遺伝子と環境因子が独立している必要がある
といった前提を受け入れる必要があります。
Case-only designの具体例
ここで、case-only designの具体例を説明してみましょう。
まずは、通常のcase-control研究を例に考えていきましょう。
Case-control研究の場合
理想的なcontrolが見つかった場合を考えてみましょう。今回の研究は、Gene-Environment Interactionを推定するのが目的です。例えば、以下のような情報がわかったとします。ここでは、
- G = G20210A (Prothrombinのvariant)
- E = ホルモン補充療法
- D = 心筋梗塞
としてみましょう:
遺伝子変異のある集団での2×2 tableは:
G (+) | Case | Control |
E (+) | 6 | 2 |
E (–) | 2 | 5 |
遺伝子変異のない集団での2×2 tableは:
G (–) | Case | Control |
E (+) | 35 | 142 |
E (–) | 65 | 236 |
となります。
この場合、G(–)かつControl (D(–))がReferenceとなるため、E(+), G(+),および両方ある場合のORは、
- OR01 = (35/65)/(142/236) = 0.89
- OR10 = (2/5)/(142/236) = 0.66
- OR11 = (6/2)/(142/236) = 4.98
となります。E(+)かつG(+)の場合、ORが跳ね上がっているため、Interactionがあるのが示唆されます。
同様の解析を、case-only studyで考えてみましょう。
Case-only study
Case-only studyの場合は、以下の情報しかわかりません:
Case | G(+) | G(–) |
E (+) | 6 | 35 |
E (–) | 2 | 65 |
このため、case-only ORは
- case-only OR = (6/2)/(35/65) = 5.57
とOR > 1よりかなり値が大きいため、相互作用の可能性が示唆されます。
まとめ
今回は遺伝疫学におけるcase-only designとそれを利用したgene-environmental interactionの見方について、簡単に開設しました。
遺伝疫学について、一通りの学習をしたい方は、以下の教科書をお勧めします: