これまでは急性胃腸炎に対してプロバイオティクスの有効性を検討してきました。
プロバイオティクスは下痢の期間を平均して1日ほど短縮させる可能性があるものの、ここ最近の論文では短縮効果をほとんどないか、あってもごくわずかという結果でした。
ここで、「下痢止めは効かないのか?」といった点が気になってくると思います。
下痢止めは医学用語では止瀉薬(ししゃやく)などと呼んでいますが、代表的なものはロペラミド(ロペミン®︎)でしょう。
今回はこちらの薬の有効性を検討した研究をご紹介します。
ロペラミドが止瀉薬として機能すると考えられているメカニズムですが、
- 小腸の動き(蠕動)を抑制
- 腸液の分泌を抑制
をすることで有効性を発揮すると考えられています。しかし、メカニズム的には有効そうでも、実際に臨床で使用してみて有効であるかは検討する必要があります。
研究の方法
今回の研究はイギリスのリバプールで1980年に行われた研究になります。対象となったのは、
- 3ヶ月〜4歳の小児
- 下痢で入院
- 低栄養や慢性疾患なし
などを対象にしています。
同様の研究を、Benghazi(リビア)でも同時に行なっています。
治療について
治療はランダムに
- ロペラミド
- プラセボ
のいずれかを割付て、1日2回の使用をしています。
アウトカムについて
研究のアウトカムは、
- 下痢の期間
- 下痢の回数
- 下痢の性状
などを指標にしています。
研究結果と考察
最終的に49人の患者が解析の対象となり、ロペラミドは24人、プラセボは25人でした。患者背景の特徴として、
- 10ヶ月前後
- 男児がやや多い
- 半数がロタウイルス
- サルモネラ感染が5例:いずれもロペラミド群
でした。
下痢の期間について
リバプールにおける、治療開始ごの下痢の期間は以下の通りでした(幾何平均)
ロペラミド | プラセボ | |
下痢の期間 | 3.41 | 3.39 |
入院日数 | 4.42 | 4.58 |
下痢の期間も入院日数もほぼ同等の結果で、統計学的な有意差はありませんでした。
Benghaziにおける、治療開始ごの下痢の期間は以下の通りでした(幾何平均)
ロペラミド | プラセボ | |
下痢の期間 | 3.13 | 3.57 |
入院日数 | 4.01 | 4.66 |
下痢の期間や入院日数は、ロペラミドを使用したグループの方が半日ほど短い傾向にありましたが、統計学的な有意差はなく、不正確な推定でした。
どちらの研究でも、重大な副作用は認めませんでした。
感想と考察
ロペラミドですが、ラットなどの動物実験でコレラなどの細菌が放出する毒素を抑制し、下痢を抑える効果があると考えられたことから使用が始まったようです。
ですが、繰り返しになってしまいますが、薬の作用機序などが正しそうでも、実臨床では有効性を認めないことは多々ありますので、きちんとした研究デザインで有効性を確認する必要があります。
今回の研究では、2つの都市で研究を行いましたが、ロペラミドの有効性はほとんどないか、あってもごくわずかな下痢の期間の短縮効果でした。
下痢止めと聞くと、下痢がすぐに止まってくれそうなイメージを持ってしまいますが、実はそうでもないのがわかっていただけると思います。
また、ロペラミドには副作用の懸念があります。過去の報告になりますが、イレウス(腸閉塞)などを副作用としてきたす恐れが報告されています。
今回の研究では、およそ50人ほどの投与で類似の副作用はありませんでしたが、頻度の低い副作用ですので、この結果だけ見て「大丈夫」と言い切るのは難しいと思います。
- Von Muhlendahl KE, Bunjes R, Krienke EG. Loperamide-induced ileus. Lancet 1980; i: 209.
-
Brown JW. Toxic megacolon associated with Ioperamide therapy. JAMA 1979; 241: 501-2
こちらの報告も、別の機会にご紹介できればと思います。
まとめ
今回の研究では、乳幼児の胃腸炎を対象に行われましたが、ロペラミドは小児の下痢の期間を短縮させる効果はほとんどなさそうな印象でした。
副作用は認めませんでしたが、頻度の低い副作用については、別の検証が必要でしょう。
下痢の時は、効率的な水分補給を。