今回はエジプトで行われた研究をご紹介します。ロペラミド(ロペミン®︎など)が小児の下痢に有効かを、ランダム化比較試験で検討しています。
ロペラミドはオピオイド受容体アゴニストですが、腸の受容体に結合して、腸の蠕動を抑制する効果があります。一方で、中枢神経系には伝達されないため、副作用は出にくくなっています。
エジプトでは、この論文が発表される前にはランダム化比較試験を小児でされたことがなく、ロペラミドは認可されていなかったようです。このため、今回の研究が行われました。
研究の方法
今回の研究は、エジプトにて
- 男児
- 2歳以下
- 水様性下痢が3日間以上
- 脱水の所見あり
などの患者を中心にランダム化比較試験が行われました。
治療とアウトカムについて
治療は経口補水療法に加えて、
- ロペラミド
- プラセボ
のいずれかを3日間投与して、アウトカムを比較しています。
アウトカムは、
- 下痢の回数・量
- 下痢の期間
- 嘔吐
などを確認しています。
研究結果と考察
最終的に100人の方が研究に参加し、ロペラミドに50人、プラセボに50人が割り付けられました。
治療療開始前の年齢、体重、完全母乳栄養の率、嘔吐回数などの因子はグループ間では似通っていました。
胃腸炎の原因は、
- 2割がロタウイルス
- 2割が大腸菌
- カンピロバクターは8%
- サルモネラは5%
くらいの分布でした。
アウトカムについて
研究のアウトカムについてですが、以下の通りでした:
体重あたりの 下痢の量 |
ロペラミド | プラセボ |
0-6h | 24 | 23 |
0-24h | 61 | 61 |
24-48h | 42 | 45 |
48-72h | 27 | 32 |
体重あたりの下痢の量を比較しても、ほとんど差はありません。
下痢の期間は以下の通りでした
ロペラミド | プラセボ | |
下痢の期間 | 59.1 (5.78) |
81.1 (6.31) |
ロペラミドを使用したグループの方が、1日ほど下痢が短い傾向にありました。
副作用に関しては、両グループとも、一人ずつ腹部膨満が出現したため、研究を中断しています。
考察と感想
ロペラミドは下痢の量を減らす効果はなさそうでしたが、下痢の期間は1日ほど短くする可能性のある結果でした。
下痢の期間は短くなるけれども下痢の量は変わらないというのは、なんとも悩ましい結果ですね。どのように解釈していいのか、ちょっと悩んでしまいます。
ロペラミドは腸の蠕動を抑えるので、下痢の回数は減らすけれども、1回量はその分増えるということでしょうか。あとは、蠕動が抑えられた結果、下痢が軽くなってきたときに、ピタッと止まりやすくなるということでしょうか。
気になった点としては、ウイルスや細菌の排泄期間です。
なぜなら、下痢が止まったとしても、腸内にウイルスや細菌が停滞してしまえば、治療としては上手くいっていないイメージすらあります。
ですが、こちらは検討されていませんでした。1980年代ですので、いささか酷な要求かもしれません。
あとは、イレウスについてです。
今回の研究ですと、ロペラミドを使用しても、しなくても腹部膨満の症状が一人ずつ認めています。
ロペラミド使用後のイレウスの症例報告は複数ありますが、50人程度の臨床試験では検出できないくらいの頻度の副作用なのかもしれないですね。
この辺りも、追加で調査は必要と思います。
まとめ
今回の研究は、ロペラミドが小児の下痢の量や期間に影響しているかを検討しています。
ロペラミドは下痢の量を減少させる効果はありませんでしたが、期間は1日ほど短縮させるのかもしれません。
腸の動きを弱めて下痢を止めることが、本当にメリットのあることなのかは、追加で検討が必要と思います。
胃腸炎のときは効率的な水分・塩分・糖分の摂取が重要です。