前回に引き続き、ロペラミドとラセカドトリル(Racecadotril;別名 アセトルファン)を比較した研究を見つけましたので、そちらを報告させていただきます。
ロペラミドは腸管にあるオピオイドμ受容体に結合し、蠕動を抑制する効果があります。下痢で蠕動が更新している場合に、そこを改善しようとするのが目的で使用されることがありますが、腸液や便が貯留してしまうことがあり、ひどい場合はイレウス(腸閉塞)のリスクにもなり得るので、特に小児科では使用するケースは少ないでしょう。
一方で、Racecadotrilは1990年代から徐々に臨床試験が行われていたようです。この薬のウリは、エンケファリナーゼという酵素を抑制し、腸からの過剰な腸液の分泌を抑制するのが目的なようです。つまり、蠕動を抑制することなく、下痢を和らげる効果が期待されているようです。
今回はこの2剤を比較するために、他施設合同で臨床試験が行われたと思います。
研究の方法
今回の研究は、フランスの34施設で
- 18歳以上
- 下痢開始後24時間以降、5日以内
- 慢性疾患なし
を対象に、ランダム化比較試験が行われました。
治療について
治療は、
- ロペラミド
- Racecadotril
のいずれかをランダムに割付け、7日間投与しています。
アウトカムについて
研究のアウトカムは、
- 下痢の回数
- 下痢の持続時間
- 副作用
などをみています。
研究の結果と考察
最終的に157人の男女が研究対象となりました。
- 平均40歳
- 治療開始前の下痢:約2日
- 下痢の回数:6回
でした。
アウトカムについて
アウトカムの比較は以下の通りとなります
ロペラミド | Racecadotril | |
下痢の回数 | 2.4 (0.4) |
3.5 (0.5) |
下痢の期間 | 13.7h (2.2h) |
14.9h (2.0h) |
有効性 (主治医の判断) |
83.7% | 82.2% |
ロペラミドとRacecadorilは、ほぼ同等の効果があるのが分かります。
副作用の頻度について
副作用の頻度は以下の通りです
ロペラミド | Racecadotril | |
副作用 | 12% | 7.4% |
便秘 | 18.7% | 9.8% |
便秘の期間 | 1.6日 (0.1) |
1.3日 (0.1) |
下痢の後に逆に便秘になってしまうことがありますが(rebound constipationと英語で言うようです)、ロペラミドの方がこのリスクは二倍ほど高かったです。
便秘の期間はそれほど変わらなそうですね。
感想と考察
ここまでの結果を見ると、Racecadotrilはロペラミドと比較して、下痢の期間はほぼ同じくらいで、やや副作用の頻度が少ない傾向にあるような印象でした。
2019年時点では日本の小児では使用されていない薬で、臨床医としての実感がわからないのが少し残念です。
以前の記事でも書きましたが、小児の下痢にロペラミドを使用するケースはほとんどなく(私個人としては、ほぼ使用したことがないです)、主な理由は安全性に対する懸念でした。これに関する記事は、後日、ご紹介できればと思います。
あとは、コスト面でしょうか。アメリカやヨーロッパの資料を見るとそれほど高い薬ではなさそうですが、プロバイオティクスと比較して、あるいはそれに追加して費用に見合った効果があるのかは、ちょっと気になりますね。
まとめ
今回の成人を対象にした多施設ランダム化比較試験では、Racecadotrilは成人の下痢に対してロペラミドとほぼ同等の効果があり、副作用は少ない印象でした。
小児への有効性がどうかは、別の資料を探す必要がありそうです。
成人ようになりますが、個人的に下痢を起こした時や、ちょっとお腹の調子が悪いとき、そうなりそうな時は、プロバイオティクス(ビオフェルミン)を内服しています。
感染症の予防には、まずは手指消毒が必要ですので、普段から心がけると良いでしょう。
一部のウイルスにはアルコール消毒が効かないものもいますので、注意は必要ですね。
汚物の処理は、次亜塩素酸を含む消毒液を使用すると良いでしょう。