今回は制吐剤であるオンダンセトロン(Ondansetron)とドンペリドン(Domperidone)を比較したランダム化比較試験の結果をご紹介します。
オンダンセトロンはゾフラン®︎、ドンペリドンはナウゼリン®︎として、処方されることがあります。国内では化学療法後の嘔吐に使用されることが多く、後者は胃腸炎などで外来受診し、嘔吐がひどい時に使用されることがあります。
国内外を見渡すと様々な制吐剤がありますが、日本やヨーロッパ(フランス、スペイン、イタリアなど)はドンペリドンが制吐剤としてよく使用されています。一方で、近年はアメリカを中心としてオンダンセトロンの有効性が複数報告されています。
今回は、オンダンセトロン vs. ドンペリドン vs. プラセボ(偽薬)で比較しています。
研究の方法
今回の研究はイタリアの15施設で行なわれた二重盲検ランダム化比較試験です。対象となったのは、
- 1〜6歳の小児
- 胃腸炎の診断あり
- 非胆汁性嘔吐が24時間以内に3回以上
- 慢性疾患なし
- 受診時までに制吐剤の投与なし
などを参考にしています。
治療について
治療は3種類で、
- オンダンセトロン
- ドンペリドン
- プラセボ
のいずれかをランダムに割り当てています。
アウトカムについて
アウトカムは、
- 経鼻胃管や点滴が必要であったか
- 救急外来で6時間以上の観察が必要
- 入院
- 48時間以内の嘔吐回数
- 副作用
などを検討しています。
研究結果と考察について
2011-2013年に研究がされ、最終的に356人が研究の対象となりました。内訳は、
- オンダンセトロン:119人
- ドンペリドン:119人
- プラセボ:118人
となります。
患者背景ですが、平均3歳、男女比はほぼ1:1、体重 14kgくらい、受診前24時間の嘔吐回数は7回でした。
点滴・経鼻胃管の必要性
主要アウトカムは、滴・経鼻胃管の使用をみています。飲めないので点滴または鼻から胃へ細い管を入れて、水分を補給する方法です。
オンダンセトロン | ドンペリドン | プラセボ | |
必要性 | 11.8% | 25.2% | 28.8% |
RR | Ref. | 2.13 | 2.44 |
オンダンセトロンは点滴が必要となる症例が、ドンペリドンやプラセボと比較すると半分程度です。
一方で、ドンペリドンはプラセボと比較しても、ほとんど効果はなさそうです。
そのほかのアウトカム
そのほかのアウトカムを比較してみましょう。
オンダンセトロン | ドンペリドン | プラセボ | |
ERに6時間以上 | 16.8% | 31.1% | 33.1% |
入院率 | 8.4% | 13.4% | 16.9% |
ERで嘔吐 | 16.8% | 44.5% | 41.5% |
ERで嘔吐回数 | 1 | 2 | 2 |
ORT成功 | 89.9% | 65.5% | 64.4% |
検査の必要性 | 14.3% | 26.1% | 32.2% |
ERで下痢 | 27.7% | 21.8% | 16.9% |
となっています。
要約すると、ドンペリドンやプラセボと比較して、オンダンセトロンは
- ER滞在時間が短い
- 入院率が低い
- ERで嘔吐する率が低い
- 経口補水療法(ORT)がうまくいく
- 追加検査の必要性が減る
などがいえます。一方で、ドンペリドンはプラセボとほぼ変わらず有効性がなさそうです。
オンダンセトロンを使用したグループで下痢のリスクが高くなっていますね。
感想と考察
ドンペリドンはナウゼリン®︎として国内でも「吐き気どめ」として、よく処方されていますが、このデータを見る限りはあまり有効性はなさそうですね。一方で、オンダンセトロンの有効性ははっきりと確認されています。
注意すべき点としては年齢でしょうか。今回の研究は1〜6歳に限定されているので、1歳未満の乳児は含まれていません。
また、360例ほどのRCTでは、稀な副作用などは検討できないと思うので、追加検証は必要と思います。
まとめ
オンダンセトロンは、イタリアの1〜6歳の小児の胃腸炎による嘔吐に対して、点滴・経鼻胃管のリスクを減らす、ER滞在時間を短くする、嘔吐のリスクを低くしました。一方で、下痢の頻度は高くなっています。
ドンペリドンについては、プラセボと比較して有効性を見出すのが難しそうです。