ドンペリドン(ナウゼリン®︎)は日本国内でも、小児の胃腸炎による嘔吐を改善させるのを目的として、よく使用されています。
ドンペリドン(ナウゼリン®︎)はドパミン(D2) 受容体拮抗薬で、消化管やchemoreceptor trigger zone (CRZ)に作用して、胃腸の運動を活発にして、食べ物を胃から腸へ送り出すのを助けます。そうすることで、吐き気や嘔吐を和らげる作用があると考えられています。
ドンペリドン(ナウゼリン®︎)を使用した臨床試験は、1970年台から行われていたようですが、ここ最近は行われていませんでした。
十分な科学的根拠のない薬が、外来でも頻繁に使用されているため、有効性を検証するために、今回の研究が行われたようです。
研究の方法
今回の研究は、2008-2009年にかけて国内で行われたランダム化比較試験になります。対象となったのは、
- 6ヶ月〜6歳
- 非胆汁性嘔吐あり
- 7日以上の下痢や血便なし
などです。
対象者はランダムに
- 経口補水 + ドンペリドン
- 経口補水
のいずれかを割り当てられています。ドンペリドンを使用するか否かは、嘔吐の症状から保護者が判断することとなっています。経口補水には、OS-1が使用されていたようです。
アウトカムは、
- 嘔吐の割合
- 嘔吐の回数
- 下痢の頻度や期間
などを比較しています。
研究結果と考察
最終的に51人が参加し、
- 経口補水+ドンペリドンは29人
- 経口補水のみは22人
の内訳でした。
患者背景ですが、年齢の中央値は3歳、体重は14kg、男女比はほぼ同等でした。受診前24時間の嘔吐は3回で、軽度の脱水患者がほとんどです。
時間毎にみた嘔吐
時間経過別にみた嘔吐の割合をみてみましょう
時間 |
ドンペリドン |
なし |
0-2 |
6/29 |
6/22 |
2-24 |
5/29 |
6/22 |
24-48 |
5/28 |
4/22 |
48-72 |
1/28 |
6/22 |
嘔吐のある患者の割合は、ドンペリドンを使用したグループのほうがやや低いでしょうか。統計学的な有意差が出たのは48-72時間のみですね。
時間毎にみた下痢
時間 |
ドンペリドン |
なし |
0-2 |
8/29 |
4/22 |
2-24 |
14/29 |
7/22 |
24-48 |
14/28 |
9/22 |
48-72 |
7/28 |
7/22 |
統計学的な有意差はないものの、ドンペリドングループのほうが、最初の48時間は下痢が多い印象です。
消化管の運動が亢進したためでしょうか。
考察と感想
今回の研究を全体としてみると、ドンペリドンを使用するとわずかに嘔吐の割合が減るかもしれませんが、逆に下痢の可能性も高まるのかもしれません。
少しこちらの論分の解釈を難しくしているのは、ドンペリドンの投与についてです。最初は治療群には全員が投与されているのかと思って読んでいたのですが、途中から実は9/29が投与されているのみに気がつきました。
この場合、29人のデータを使用した場合は、Intention-to-treat (ITT)解析になります。一方で、使用した9人のデータを治療群に、使用していない20人のデータをコントロール群にする場合はper-protocol解析となります。
今回おこなわれたITT解析事態はバイアスのあるものではないのですが、治療群の半分以上が実は治療を受けておらず、ITTで推定された有効性は、実際のものより過小評価されている可能性があります。
まとめ
今回の研究は、ドンペリドンを使用するとわずかに嘔吐の割合が減るかもしれませんが、逆に下痢の可能性も高まるのかもしれませんが、この結果のみでは、白黒はっきりさせるのは難しいと感じました。
別の研究結果もみていこうと思います。