さて「かぜに抗菌薬は効かない」は医師であれば常識ですが、実際に科学的根拠があるのでしょうか。実は、抗菌薬がかぜ症状を短縮させるのかを検討したシステマティック・レビューとメタ解析があります。
Kenealy T, Arroll B. Antibiotics for the common cold and acute purulent rhinitis. Cochrane database Syst Rev. 2013;2(6):CD000247. doi:10.1002/14651858.CD000247.pub3
システマティック・レビューでは、PubMed、EMBASEなどといった文献のデータベースから、あらかじめ決めておいた検索ワードの組み合わせで網羅的に偏りなく文献を検索し評価します。メタ解析では、個々の研究結果の統合し、統計学的に評価をする方法です。
詳しくはこちらの記事でまとめてあります:
研究結果と考察
抗菌薬はかぜの症状を短縮させる?
かぜの症状が1週間以上持続しているかどうかを評価しています。結果は以下の通りです。
Pooled | RR | RD | NNT |
成人 +小児 |
.95 (.59, 1.51) |
-1% (-12%, 11%) |
100 |
小児 | 1.36 (.59, 3.15) |
1% (-3%, 6%) |
-100 |
成人と小児において、抗菌薬投与のかぜ症状持続に対する効果を評価しています。プラセボと比較して、抗菌薬を使用したグループは、かぜ症状が持続するリスクが0.95倍とやや低下していますが、95%信頼区間は広く不正確な推定となっています(RR, 0.95; 95%CI, 0.59–1.51)。こちらのデータでは、かぜの症状を長引かせないために抗菌薬を使用する正当化するのは難しいでしょう。
小児のみに限定した解析の場合、プラセボと比較して、抗菌薬を使用した場合、かぜ症状が持続するリスクは1.36倍上昇しました。研究数が少なく、95%信頼区間も広いため結論づけるのは難しいですが、現状では、かぜの症状を長引かせないために抗菌薬を使用するメリットはなさそうです。
抗菌薬による副作用について
Pooled | RR | RD | NNH |
成人 +小児 |
1.80 (1.01, 3.21) |
8% (1%, 15%) |
13 |
小児 | 0.91 (.51, 1.63) |
-2% (-12%, 9%) |
-50 |
抗菌薬を使用したグループのほうが、下痢などをはじめとした副作用のリスクが1.8倍高かく、統計学的な有意差もでています(RR, 1.80; 95%CI, 1.01–3.21)。
一方で、小児のみに解析を絞ると結果は以下の通りです。抗菌薬を使用したグループのほうが、下痢などの副作用のリスクがやや低くなっていますが、サンプル数・研究数が少なく、かなり不正確な推定となっています(RR, 0.91; 95%CI, 0.51–1.63)
*NNHはnumber needed to harmのことで、どれだけの人を治療したら副作用が生じるかという指標です。例えば、成人+小児のデータではNNH = 13とでていますが、13人に治療をすると1人が副作用を生じるという意味になります。
考察と感想
あたりまえの結果といえばそうですが、かぜに抗菌薬を使用しても、症状を短縮させるような効果はなさそうな印象ですね。
一方で、小児のデータはすくなく、かなり不確実性の伴う結果であることも留意しておこうと思います。
副作用についても、成人のほうではリスクの上昇がはっきりとでています。10数人に投与したら1人は下痢を含む副作用が出るという結果でした。
まとめ
今回の研究では、かぜに抗菌薬を使用しても
- 症状の期間を短縮させない
- 副作用のリスクが上昇する可能性がある
と指摘されています。
別の指標(肺炎や中耳炎など)は次回に解説しようと思います。