近年、難治性マイコプラズマ肺炎に対して、ステロイドの有効性が注目されています。というのも、抗菌薬の種類を変更しても解熱しない難治性マイコプラズマ感染症は、耐性菌の問題でなく、宿主の免疫応答が原因のことがあると考えられているからです。
感染症にステロイドを使用することに異論のある方がいるかもしれませんが、難治例に対してステロイドが発熱期間や入院期間を短縮させた報告はいくつかあります。マイコプラズマ肺炎にステロイドが有効かどうか検討した症例集積や観察研究は韓国と日本を中心に複数あります。
1. 韓国からの報告 | 2006年
2006年の韓国からの15例の症例集積研究1によると、発熱10日・入院7日後のタイミングでステロイド(プレドニゾロン1 mg/kg/day)を投与したところ、15例中14例は24時間以内に解熱しています。ステロイドが必要であった患者の特徴として、白血球が7500/mm3 (SD 2000)、好中球が71.3% (SD, 5.6)、リンパ球が19.7% (SD, 5.7%)と、ややリンパ急が少ない傾向にありました1
2. 韓国からの報告 | 2014年
2014年の韓国から発表された12例の症例集積研究もあります2。入院前の発熱期間は4.9日(SD, 1.7)、入院後の発熱が5.4日間(SD, 2.5)の12例に対して、メチルプレドニンパルス療法を3日間したところ、発熱・胸部レントゲン所見が改善しています。治療開始前の検査は、白血球数が7700/mm3 (SD 3000)、リンパ球数が1600/mm3 (SD 700)と、2006年の症例集積と似たような特徴がありました。
3. 韓国からの報告 | 2014年
もう少し規模の大きな症例集積も報告されています。2014年に韓国から報告された、ステロイド使用した90例のうち、86例は48時間以内に解熱しています3。治療前の白血球が8300/mm3 (SD 3100)、うちリンパ球が32% (SD, 21%)でした。
4. 日本からの報告 | 2008年
日本からも症例集積研究が複数報告されています。2008年に行われた症例集積4によると、白血球数減少、LDH上昇(304-778 IU/L)、フェリチン上昇(210-1480 ng/ml)、尿中β2MG上昇(479-8683μg/l)を認めた6症例に、第10病日付近で3日間のステロイドパルス療法を開始したところ、半日以内に解熱しています。
5. 日本からの報告 | 2014年
2014年に報告された5例の治療抵抗性マイコプラズマ感染症によると5、ステロイド開始前にはLDH (平均571 IU/L (299-3606))やIL-18 (平均579 pg/mL (351-1680))が高い傾向にありましたが、ステロイドパルス療法で速やかに解熱しています。
6. 韓国からの報告 | 2014年
治療抵抗性マイコプラズマ感染症に対し、ステロイドの有効性を検討した研究は複数あります。2014年に韓国の研究グループから6、治療前の発熱期間が約2週間、白血球数は約8000/mm3、血清フェリチン値は約800 ng/mlを対象に、アジスロマイシン単剤またはアジスロマイシン+プレドニゾロン2 mg/kg/dayのいずれかの治療を、ランダムに割り付けてたRCTが報告されています 。ステロイド併用群は、全例(28/28)が48時間以内に解熱しましたが、コントロール群に解熱した患者はいませんでした(0/30)29。さらに、ステロイド併用群のほうが、低酸素血症の期間は1日ほど短く(1.9日(SD, 0.9)vs. 2.7日(SD, 1.1))、呼吸苦の期間も1.5日ほど短い(1.5日(SD, 0.7)vs. 2.9日(SD, 0.6))傾向にありました。
7. 中国からの報告 | 2017年
2017年に中国の研究グループからも類似の報告がされています7。発熱期間が約9日、白血球数は約9000/mm3、血清LDH は約900 IU/Lを対象に、アジスロマイシン単独治療vs. ステロイド併用(mPSL 2 mg/kg/day)で比較しています7。ステロイド併用群(n = 52)は治療開始してから平均0.86日(SD, 0.85)で解熱していますが、アジスロマイシン単独治療群(n = 50)は7日後に解熱している患者はいませんでした30。
8. 中国からの報告 | 2014年
ステロイド治療を行うタイミングとステロイドの量の違いで、治療効果が異なるかを検討した研究もあります。2014年に中国から発表された研究では、ステロイドのよる治療を入院後12時間以内で始めた場合と72時間以降に開始した場合で発熱期間や入院日数を比較しています31。結果は、ステロイドを早期に開始したグループのほうが4日ほど早く解熱し、入院期間も2日ほど短い傾向にありました8
9. 日本からの報告 | 2019年
2019年に日本で発表された後方視的研究では、ステロイドの量の違い(PSL > 2 mg/kg/day vs. < 2 mg/kg/day)で発熱期間や入院日数を検討しています32。ステロイドを高用量使用したグループのほうが早く解熱し(0.8日(SD, 1.0)vs. 1.5日(SD, 1.4))、入院期間も短い傾向にありました(8.2日(SD, 2.4)vs. 10.7日(SD, 2.7))。
まとめ
感染症に対してステロイドを使用することに異論を唱えるエキスパートもいるかと思いますが、小児のマイコプラズマに限っていえば、発熱が遷延し、LDHや血清フェリチンが高いような症例に限っていえば、ステロイドは発熱期間や入院日数を短縮させる効果がありそうです。
参考文献
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- You SY, Jwa HJ, Yang EA, Kil HR, Lee JH. Effects of methylprednisolone pulse therapy on refractory Mycoplasma pneumoniae pneumonia in children. Allergy, Asthma Immunol Res. 2014;6(1):22-26. doi:10.4168/aair.2014.6.1.22
- Youn YS, Lee SC, Rhim JW, Shin MS, Kang JH, Lee KY. Early additional immune-modulators for Mycoplasma pneumoniae pneumonia in children: An observation study. Infect Chemother. 2014;46(4):239-247. doi:10.3947/ic.2014.46.4.239
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