- 小児の気道感染症はウイルス性が多い
- 特に年齢がさがるほど、その傾向は顕著
- 例えば、2歳未満の小児の気管支炎・肺炎の8割はウイルス性
という事実を並べると、抗菌薬は気管支炎や肺炎であっても必須ではないと考えられます。しかし、実際に肺炎や気管支炎のお子さんを診療した際に、「抗菌薬を投与しない」という選択肢をとるのは、それなりに勇気のいる選択です。
今回は、肺炎に抗菌薬が本当に必要なのか検討した研究が最近報告されています。
【NEW!】抗菌薬は、近代の発明の中でも最大のもののひとつで、多くの命を救ってきました。一方で、薬剤耐性の問題は緊急の問題とも言えましょう。
では、呼吸数が多い(肺炎を示唆する)小児の急性肺炎に対し、抗菌薬を使うかどうかで治療失敗率がどれくらいかわるでしょうか?https://t.co/jJYPWWeIGu— ほむほむ@アレルギー専門医 (@ped_allergy) September 5, 2019
研究の方法
今回の研究は、
- 2016-2017年
- マラウイ
- HIVに感染していない小児
- 2〜59ヶ月
の重症でない肺炎の外来患者を対象に行われました。
治療について
治療は、ランダムに
- アモキシシリン
- プラセボ
のいずれかを1日2回、3日間投与しています。
アウトカムについて
研究のアウトカムは、
- 治療失敗
- 4〜14日での再燃
- 副作用
などをみています。
「治療失敗」は、低酸素・WHO IMCIのdanger sign・治療変更の必要性・入院・入院期間の延長・再入院などの複合アウトカムとなっています。
研究の結果と考察
中間解析で研究は終了となり、このデータで報告されています。
- アモキシシリン:552人
- プラセボ:543人
で主要アウトカムを比較しています。
1〜3歳が45%、女児が54%、38度以上の発熱は3割、PCVやHibワクチンの3回以上の接種率は50%未満、全員のSpO2は93%以上でした。
治療失敗について
治療失敗率は以下の通りでした。
AMPC | プラセボ | |
治療失敗 | 22/552 (4.0%) |
38/543 (7.0%) |
リスク比とリスク差、NNTを計算すると以下の通りです。
- RR 1.76 (95%CI, 1.05 to 2.93)
- RD 3.0% (95%CI, 0.3% to 5.7%)
- NNT 34
著者らはさらに年齢などを統計モデルで調整しています。
- aRR 1.78 (95%CI, 1.07 to 2.97)
- aRD 3.0% (95%CI, 0.4% to 5.7%)
- NNT 34
年齢別の治療失敗率
年齢別にも治療失敗率を比較しています:
月齢 | AMPC | プラセボ |
2-11 | 10/189 (5.3%) |
15/187 (8.0%) |
12-35 | 9/252 (3.6%) |
17/245 (6.9%) |
36-59 | 3/111 (2.7%) |
6/111 (5.4%) |
リスク比、リスク差、NNTに変換すると以下の通りです。
月齢 | リスク比 | リスク差 | NNT |
2-11 | 1.52 (.70–3.29) |
2.7% (-2.3–7.8) |
38 |
12-35 | 1.87 (.75–4.69) |
3.4% (-0.6–7.3) |
30 |
36-59 | 2.21 (.79–6.16) |
2.7% (-2.5–7.9) |
38 |
リスク比だけでみると、月齢があがるほど、プラセボで治療すると失敗率のリスクが上がっているようにみえます。
再燃率について
AMPC | プラセボ | |
再燃率 | 34/530 (6.4%) |
26/505 (5.1%) |
- aRR 0.80 (95%CI, 0.49 to 1.32)
- aRD 1.3% (95%CI, -4.1% to 1.5%)
- NNT -77
再燃率については抗菌薬を使用したグループのほうがむしろ高くなっており、不思議な結果です。
考察と感想
まずこの論文で思ったのが、倫理的な観点です。重症でなく、外来でみれる範囲の肺炎ではありますが、抗菌薬を使用しないという選択肢をランダム化に割り当てています。途上国で栄養・衛生状態の悪い環境で、この選択肢がでていることに驚きを隠せません。私個人としては、この研究は倫理的に大きな問題があると思います。
その反面、9割以上の小児は抗菌薬がなくとも軽快しているのが分かります。呼吸状態が安定して、全身状態が落ち着いている肺炎であれば、抗菌薬の投与をしなくても自然に軽快することが示唆されています。
この結果をどうとらえるのか、少し難しいですが、医療アクセスの悪いところ、衛生状態が悪い地域などではあまりおススメできない治療方針です。医療アクセスのよい環境なら、あるいはウイルス性という確証があるなら(例;RSV)、数日ほど様子をみるという選択肢はありかもしれませんが。
まとめ
小児の重症でない肺炎に対して抗菌薬を使用すると、治療失敗率は3%ほど低下します。一方で、抗菌薬はなくても9割近くの小児は自然に軽快していることが示唆されます。
どのような小児に使用すべきか、まだ検討課題が多い印象です。
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