ゾフルーザ®︎(Baloxavir)の発売が始まって、大人では使用している医師もいるようですが、小児に限って言えばデータがなさすぎて、慎重な姿勢を示す小児科医が多いと思います。私もその一人です。
今回の研究は、ゾフルーザ®︎(Baloxavir)を使用して、どのような経過を辿るのか、副作用を含めて安全性は大丈夫か、ウイルスの排泄期間はどうかを調査した論文を紹介します。
NS先生(@)のツイートとブログ(リンクはこちら)を参考に文献にたどり着くことができました。
小児へのバロキサビル(ゾフルーザ)投与について評価したオープンラベル研究:
23.4%でゾフルーザの感受性が低くなるアミノ酸変異がみられ, 変異株が出現した児では症状改善までにより時間を要するかもしれない(中央値で約1日遅くなる)これでは厳しいかもしれないですね.https://t.co/Kmu24fHBCz
— NS (@nuno40801) September 25, 2019
今回の参考文献はこちらです。
研究の方法
- 1〜11歳
- インフルエンザ感染が確定
- 発熱後 48時間以内
の小児を対象に、安全性と発熱期間の推移を追跡しています。
アウトカムについて
アウトカムは、Baloxavir内服から
- 症状軽快までの期間(咳・鼻閉の軽快 & 体温 < 37.5℃)
- 解熱するまでの期間
- 再発熱
- 合併症
- ウイルスの検出
などを指標にしています。
研究の結果
最終的に107人がBalocavirの治療を受けて、3名はウイルスPCR陰性のため除外されています。年齢の中央値は8歳、24時間以内に治療を受けた章には84.6%です。
副作用について
副作用の頻度は以下の通りです(一部のみ抜粋:詳細は原著論文を参照のこと):
副作用 | % |
全て | 34.6% (37/107) |
消化器症状 | 15% (16/107) |
嘔吐 | 7.5% (8/107) |
下痢 | 2.8% (3/107) |
重篤な副作用は認められなかったようです。
過去の研究でオセルタミビルでも嘔吐は10%前後で認められていたので、同程度ですね。
症状期間について
症状軽快までの期間(咳・鼻閉の軽快 & 体温 < 37.5℃)でしたが、
- 症状期間の中央値は44.6時間(95%CI, 38.9–62.5)
- 81.6%の患者は120時間までに症状は軽快
- 解熱までの期間は21.4時間 (19.8-25.8時間)
- 3日目の再発熱:11/99 (11.1%)
- 4日目の際発熱: 11/103 (10.7%)
ウイルスの排泄について
- ウイルスの排泄が終了したのは、中央値で24時間
- A型は24時間, B型は144時間
でした。
ウイルスの変異について
治療前に変異(PA/I38T/M)はありませんでしたが、治療後にこの変異が生じた症例は、18/77 (23.4%)でした。
特に変異を認めた症例は、ウイルスの排泄期間が長引き(180時間)、症状が軽減するまで期間も長くなったようです(79.6時間)
さらに、インフルエンザに対する抗体が40以下の症例は、そうでない症例と比較して、症状が軽快するまでの期間が長い傾向にありました(85.4時間 vs. 56時間)
データのまとめ
データをまとめると以下の通りです。
変異 | あり N=18 |
なし N=49 |
全て N=104 |
症状 | 79.6h | 42.8h | 44.6h |
発熱 | 29.5h | 20.8h | 21.4h |
再発熱 3日以降 |
23.5% | 8.5% | 10.7% |
ウイルス 排泄 |
180h | 24h | 24h |
23.4%(18/77)でウイルスの変異が生じているのは、結構高い確率と思いました。この点は著者らも「変異の頻度を減らすための使用量のレジメを評価する必要がある」と述べています。
小児において、基本的にオセルタミビル(タミフル®︎)が推奨されていますが、今回の結果ではそれは揺るがないと思いました。
●小児感染症の勉強は以下の2冊がオススメ