- かぜをひいてしまったようです。悪化しないように早めに受診しました。
- 咳が辛そうなので、咳止めの薬をください
- 鼻水で鼻が詰まってしまうので、鼻水を止める薬をください
- 熱が出てしまったので、受診しました
当たり前のことですが、お子さんもかぜをひくと、咳や鼻水は出ますし、場合によっては発熱することがあります。このため、お子さんの辛い症状を「薬でなんとかできないか」と考えて受診先で相談される方もいるでしょう。医療者の視点からすると、「風邪薬の有効性」を保護者が期待して受診されているようにも感じることがあります。
- 明日には熱が下がりますか?
- 鼻水はどのくらい続きますか?
- 咳は軽く済みますか?
一見すると非常にシンプルで簡単な質問ですが、目の前で診察したお子さんが「明日、熱が下がるのか」「鼻水がどのくらい続くのか」を、確信をもって答えられる小児科医はまずいないでしょう。もし、自信満々で答えていたとしたら、かなりの確率ではったりです。小児を診る多くの医師は、「おそらく治るであろう」と思われる症状の期間を予測してお伝えしていることが多いと思います。
この「予測」ですが、医師個人の経験による予測のこともありますし、過去の研究結果をもとに説明する方もいます。
前回、こちらで「かぜは自然に治るという感覚を育てましょう」という記事を書きました。
1年半ほど前の記事ですが、非常に多くの関心をいただいたことを覚えています。この記事を書いたあとも、ブログやツイッター上で「かぜの自然経過」や「かぜに効きそうな治療・対処法」というのを繰り返し論文を参照しながらまとめてきました。
小児のかぜはウイルス感染症が大半で、残念ながら特効薬はありません。このため対症療法が中心となりますが、重要なことは余分な薬は使わず、しっかり水分・食事を摂取し、十分な休息をとることです。自宅でできる処置や薬の有効性(ほとんどが無効か、あってもデメリットが上回る)についても解説してきました。
これらの説明は、どちらかというと、かぜをした時にするべきこと、するべきでなはいことの解説といえます。一方で、こどもを育てる保護者の視点からすれば、「どのくらいの期間で軽快するのか」「合併症の割合(確率)はどのくらいか」「どのような症状で受診すればよいのか」といった点がわからず、出口のないトンネルのように感じて不安になる方もいるでしょう。
今回は、「かぜは自然に治るという感覚を育てる」ために必要な、「かぜの自然経過」について解説していきましょう。具体的には、
- こどもはかぜをどれくらいひくのか?
- かぜ症状の期間
- 合併症の割合
- どのような時に受診すればよいか
といった4点を中心に説明していきます。過去にブログで紹介してきたガイドラインや論文を複数参照しながらまとめていきます。
かぜ症状の期間について
かぜ症状の自然経過を知ることで、こどもの咳や鼻水の期間が長いのか、短いのか、どれくらいで軽快が見込めるのかが分かります。
乳幼児は年に5−6回、年齢が上がると減ってきます
こちらの記事で詳しく説明していますが、乳幼児は年に平均して5−6回ほどかぜをひきます。大人はせいぜい2−3回が平均ですから、倍近くかぜに罹患しているのがわかります。実際のデータはこちらです↓
かぜの原因はウイルスですが、以下の種類がメジャーです。
ウイルス | 割合 |
ライノウイルス | 30-50% |
コロナウイルス | 10-15% |
インフルエンザウイルス | 5-15% |
RSウイルス | 5% |
パラインフルエンザウイルス | 5% |
アデノウイルス | < 5% |
エンテロウイルス | < 5% |
ヒトメタニューモウイルス | 不明 |
不明 | 20-30% |
原因として最も多いのがライノウイルスですが、ライノウイルスの数も100以上あるため、繰り返しかぜにかかってしまうのです。
保育園に通うと風邪の回数は増える
先ほど提示した「年に平均5−6回」のかぜは、保育園に通っている小児も、そうでない小児のデータも入っています。
確かに「保育園に通い出したら、風邪の回数が増えました」とご相談されることは非常に多いです。
保育園・幼稚園に通い始めると、様々なお子さんとの接触の機会が増えます。このため、かぜを頻回にひくようになると考えられています。
自宅 | 保育園 | |
感染症, 平均回数 | 4.7回 | 7.1回 |
かぜ, 平均回数 | 3.9回 | 6.3回 |
自宅で育児をした場合と保育園の通園した場合に、感染症にかかる回数を比較した研究があります。
保育園に通園した場合、自宅で育児をしている場合と比較して、感染症の回数が1.5〜2倍ほど増えているのが分かります。
自宅 | 保育園 | |
6回以上 | 29% | 73% |
60日以上 | 18% | 73% |
年間に6回以上の風邪ですと、2ヶ月に1回風邪をひく感覚ですが、保育園に通園した場合、7割近くのお子さんが頻回に風邪をひいているのがわかります。
保育園にいくと、小学生になった時に風邪をひきにくくなる
このような話をすると、保育園に行くと風邪を沢山もらうから損をしているような感覚に陥ってしまう方がいるかもしれません。しかし、乳幼児期にかぜを頻回ひくことで、免疫システムが強化され、のちに風邪をひきにくくなった研究結果もあります。
3歳未満の小児で、1クラス6人以上いる保育園に通っていた場合、保育園に通っていない小児と比較して、乳幼児期は頻回にかぜをひきやすの傾向にあります。
しかし、6ー11歳の期間は、保育園に通っていた小児と比較して、かぜをひきにくくなっているのが分かります。
乳幼児は…
- 1年に5−6回ほどかぜをひきます
- 保育園・幼稚園に通園していると、かぜの回数は多い傾向です
- 乳幼児期に保育園でかぜを頻回にひいたお子さんは、小学生の時期はかぜをひきづらくなります
かぜの症状はどのくらい持続する?
次に、風邪の症状がどれくらい持続するのかを把握してみましょう。
- 「咳がなかなか治りません」
- 「鼻水がずっと続いています」
お子さんのかぜ症状が「長い」か否かは、保護者によって感じ方が異なると思います。ガイドラインや過去の研究結果が示したデータが、「かぜがどのくらい長引くのか」、「今のお子さんの咳や鼻水の症状は長いのか」と言った疑問に、客観性を持って比較することができます。
ガイドラインから見たかぜ症状の期間について
ガイドライン | ||
症状 | イギリス | アメリカ |
急性中耳炎 | 4日 | – |
咽頭痛 | 1週間 | 1〜2週間 |
かぜ症状 (鼻汁 etc) | 1.5週間 | 〜2週間 |
咳 | 3週間 | 2〜8週間 |
気管支炎 | 3週間 | – |
アメリカとイギリスの学術団体によるガイドラインを参照してみましょう。
小児のかぜ症状がどのくらい持続するのかの一定の目安になると思います。平均的な推移ですが、咽頭痛は1週間、鼻水は2週間、咳は3週間前後、持続することがあります。
「思っていたより長い」と感じた保護者が多いのではないでしょうか?
それぞれの症状の期間について
それぞれのかぜ症状の期間についても見ていきましょう。
小児の風邪において、
- クループ 1-2日
- 耳痛 2-3日
- 鼻汁 11-12日
- 咳 10-11日
- 気管支炎による咳 13-14日
で半数が回復することが分かります。咳は25日で90%以上の小児が改善しています。かぜと言うと1週間くらいで軽快すると考える保護者も多いかもしれませんが、意外と症状が長いのが理解していただけると思います。
医師からは「風邪はもう治っているのでは」と言われたのですが…
臨床医は基本的に保護者の情報と診察した情報から「軽快」を判断しています。このため、保護者の「治った」と医師の「よくなった」に乖離が見られることがしばしばあります。
経過(日) | 5-8 | 14 | 20-21 | 28 |
保護者 | 8% | 34% | 47% | 70% |
医師 | 51% | 76% | 82% | 93% |
アメリカのデータになってしまいますが、風邪をひいた1週間後には医師が「治った・軽快した」と判断したケースは5割ほどです。ですが、この期間に保護者が「治った・軽快した」と感じた方はわずか8%です。
この辺りのミスコミュニケーションは、今後、埋めていく必要がありそうです。
かぜの合併症について
最後にかぜの合併症について、どのくらいの頻度で生じるのかを把握していきましょう。
合併症 | 割合 |
発疹 | 10-20%* (5-44) |
急性中耳炎 | 5-18%* (0.1-25) |
下痢 | 10%** (4-21) |
嘔吐 | 12%** (5-23) |
肺炎/気管支炎 | 5%* (0.1-25) |
報告によってばらつきは大きいですが、(痛みを伴うような)中耳炎は10%前後、肺炎/気管支炎は5%程度で生じます。
そのほか、風邪をひいた場合に蕁麻疹や原因不明の発疹が出ることは乳幼児では比較的多いですし、下痢や嘔吐をすることもあります。
医療機関への受診の大まかな目安
「かぜは自然に治るという感覚を育てる」のは重要ですが、医療機関に受診する目安を知っておいた方が良いでしょう。特に自宅で様子をみていて良いラインと、すぐに受診した方が良いの判断は最初は難しいと思います。
「何かおかしい?」「不安がある」という感覚は大事に
1つ言えることですが、保護者の方々が持っている「何かおかしい」という感覚は大事にしてください。お子さんのことを一番よく知っているのは、医療者ではなく、保護者の方々です。「何かおかしい」「不安がある」ような状態であれば、迷うことなく医療機関に受診するようにしてください。
風邪を繰り返しているうちに「このくらいなら大丈夫そう」という感覚が徐々にわかってくると思います。不安のあるうちは、無理せずに医療機関などでご相談するようにしてください。
3ヶ月未満の発熱はすぐに受診を
3ヶ月未満の発熱は重症化しやすいのでお早めの受診が必要です。
その他、受診した方が良い目安
その他、緊急で受診した方が良い目安ですが、
- 半日以上、水分が全く摂取できない
- 不機嫌がずっと続く
- 呼びかけても反応が鈍い
- 呼吸が苦しそう
- けいれん(ひきつけ)を起こした
などは緊急の受診が必要です。
また、
- 38.5度以上の発熱が3-4日以上続く
- 鼻水の症状が2週間以上続く(副鼻腔炎などの可能性)
- 発熱があり、目と口が赤くなっている(川崎病の可能性)
- 耳を痛がる(中耳炎の可能性)
なども、準緊急ですがお早めに受診された方が良いでしょう。
まとめ
- こどもはかぜをどれくらいひくのか?
- かぜ症状の期間
- 合併症の割合
- どのような時に受診すればよいか
といった4点を中心に説明していきました。
詳しく知りたい方は、それぞれの記事リンクをみてみましょう。